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2006年2月 3日 (金)

作家還暦の頃 その1

 年明け早速、お気に入り作家たちの、還暦の頃の作品を読み始めました。                                                                                                                                                       

 最初の作品は、谷崎潤一郎『細雪』(1942~48年執筆・発表、56~62歳)。華麗で優雅な時が流れます。それは、三人の姉妹が、花やかな和服で着飾って、花見や音楽会や蛍狩りに出かける時、一段と映えるのでした。広沢の池の花見の場面が、印象的です。しかし、時代は日中戦争さなかにあり、主人公たちの花やかな生活にも、戦争の影が、徐々に忍び込んできます。四女妙子の踊りの会を、時局柄派手には出来ないとして、平日に個人宅で催したり、隣家のドイツ人家族が、戦争に伴う商売の不振から帰国を迫られたりします。また一方では、次女幸子の夫貞之助は、勤務先の会社が軍需関連企業のため、年々業績好調にあり、彼の所得も余裕のあるものとなってきています。関西の上流階層の家族への戦争の影のあり様が、垣間見えます。
 こうした時代の明と暗を含んだ空気を背景に、四人姉妹とその周りの人々の人間模様を、克明に描き込んでいます。物語の柱の一つが、三女雪子の見合い。名家蒔岡家の没落と雪子本人が年を重ねるに反比例して、持ちこまれる見合い相手の条件が、悪くなっていく様が、戯画の様に描かれ、面白い。
   

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