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2006年9月10日 (日)

石の遺言

 外尾悦郎さんの『ガウディの伝言』を読みました。ああ、この人にしか書けないガウディ論だなあ、としみじみと感じつつ、読みつづけました。
 著者は、1978年にバロセロナに渡り、それからの28年間、サグラダ・ファミリアで「毎日毎日、石ばかり彫ってきた」という日本人彫刻家です。プロローグには、「夜、誰もいなくなった聖堂で一人石を彫っているとき・・・・・夜のサグラダ・ファミリアには、ひと味違った美しさ・・・・・巨大な石の生き物が、本来の野生を取り戻し・・・・・石の表情がより豊かになり、生き生きと、自分の力と気高さを誇示・・・・・」とあり、一気に外尾さんの世界に、引き込まれていきます。そして、その外尾さんの世界とは、エピローグに「自分がガウディになるのではなく、ガウディの見ていたものを一緒に見、行こうとしていた方向に一緒に行こう。サグラダ・ファミリアをガウディの考えていた方向に向かわせるために、自分を無に近づけて、石を彫ろう」という世界でした。つまり、ガウディの世界なのです。
 圧巻は、「第5章 ガウディの遺言―『ロザリオの間』を彫る」の章です。
 ロザリオの間は、ガウディが生前唯一完成させていた内部空間でしたが、スペイン市民戦争で破壊されました。そして、そのまま50年もの間封印されていたのですが、その修復が著者に委ねられます。著者は、修復作業に取り掛かりながら、ガウディの伝言を読み解き、想像力を飛翔させ、そして宗教的な深みにまで到達しながら、粉々に破壊された彫刻群を蘇らせました。ガウディの「石の遺言」の読み解きは、推理小説を読むようなスリリングな楽しさでした。
 『ガウディの伝言』での新しい知見2つ。
 過去2度、サグラダ・ファミリアを観光で訪ねました。ガイドは言います。「ガウディの作品には直線が無い」。が、外尾さんは言います。「・・・・・まったくの逆です。少なくともサグラダ・ファミリアは、主に直線で構成されている・・・・・曲面はあっても、曲線はあまりない・・・・・」。
 もうひとつ。サグラダ・ファミリアは、2020年代完成を目指す、とされていること。91年に始めてバロセロナに行ったときには、「あと何十年、あるいは百年以上かかるかも」知れないとガイドされていました。そして、02年に2度目に訪ねたとき、この10年余で工事が急ピッチで進んだことを、強く印象付けられました。どうも、私の生きているうちに完成されたサグラダ・ファミリアを訪ねることが、可能なのかもしれない。
 外尾さんの『ガウディの伝言』最後の挨拶は、「サグラダ・ファミリアで会いましょう」。是非、会いましょう。

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