日本史の常識がくつがえる
「聖徳太子は日本人ではない」といわれ、へぇっ?と一瞬戸惑いそして驚きます。しかし、最近の古代史の通説では、そうなのです。つまり、日本という国家の形成過程で、「日本」という国号と「天皇」という称号が安定的に用いられ、制度的に定着するのは、天武、持統朝からであり、このときよりも前に「日本」も「日本人」も実在しない、というわけです。では、聖徳太子は何人なのか?彼は、倭の国の倭人なのです。
「へぇっ!」という私の意識のなかに、端無くも私自身の国家観が、滲み出てしまいました。統治機構としての「国家」と私が生まれ育った「くに」とを、ごっちゃにし曖昧にしている。私の中の「日本」は、歴史的存在としての国家ではなく、神話的存在としての(それは必ずしも『記紀』の世界ではなくても)日本をイメージしていたのかもしれません。
日本中世史の網野善彦さんの『日本の歴史をよみなおす(全)』は、私たちの日本史の常識を、一つひとつ覆していき、「日本」や「天皇」を、空気や水のような自然現象(=絶対的存在)のように感じている私たちに、それらを相対化し対象化する力を喚起してくれます。