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2007年3月26日 (月)

沖縄密約が裁かれる

 明日27日、西山太吉元毎日新聞記者が提訴した「国家賠償訴訟」の判決が、東京地裁で下されます。判決の結果が注目されるとともに、多くの関係者たちの反応が、大変興味深い。政府、政党、新聞社とテレビ、週刊誌、月刊誌その他論壇の反応を注目したく思います。最大の関係者は、国民一人ひとりです。言論・報道の自由、国民の知る権利など日本の民主主義そのものが問われているのです。

 西山元記者は、1972年の沖縄返還にあたり、日米交渉で密約があった証拠を入手、この情報をもとに社会党の横路孝弘議員が、国会で政府を追求しました。密約は、本来アメリカが支払うべきであった返還軍用地復元費用400万ドルを、日本が肩代わりして支払い、アメリカが支払ったように見せかける外交文書の作為をおこなったもの。政府は、密約そのものの存在を否定するとともに、「外交機密」を漏洩したとして、西山記者と外務省の女性事務官を国家公務員法違反で告発します。当初、密約問題と国民の知る権利等が主要テーマとして論議されていたのですが、政府、検察および週刊誌を中心としたメディアによって、密約事件が「機密漏洩事件」へと読み替えられ、女性事務官と「情を通じて」機密を入手したという起訴状にあるように、男女問題へすり替えられました。そして、女性事務官は、一審で有罪確定。西山記者は、一審無罪の後控訴審で有罪となり、最高裁で有罪が決定します。西山記者は、新聞社を追われました。
 そして30年経った2002年、米国公文書館の機密指定解除に伴う公文書公開により、日米密約の実態が明らかになりました。これをうけ、西山は05年、「密約を知りながら違法に起訴したうえ、密約の存在を否定し続けたことで著しく名誉を傷つけた」などとして政府に対し損害賠償と謝罪を求めて提訴しました。06年には、返還交渉の当事者であった吉野文六元外務省アメリカ局長が、関係者としてはじめて密約の存在を認めました。
 
 昨年夏、澤地久枝さんの『密約―外務省機密漏洩事件』が、岩波現代文庫として再版されました。同書は、78年の西山元記者の最高裁の有罪決定とほぼ同時に、中央公論社から出版され中公文庫にもなったのですが、その後28年間もの間、絶版状態でした。横路議員等による国会での追及場面、東京地裁での検事・被告人・弁護士・証人等のやり取り(これは圧巻です)、そして女性事務官に関わる二つの告白の取材。この告白は、澤地さんが渾身をこめた書いた、女性事務官へのメッセージでした。西山元記者の損害賠償訴訟において、原告代理人は裁判官に対し、この澤地久枝著『密約』を、是非読んでほしい、と訴えました。

 現在、米軍再編計画が、地球規模で進められています。東アジアにおいては、日本の米軍基地が、最大の役割を担おうとしています。そして日米軍事一体化に拍車がかかります。こうしたことの全容は、国民の知らないところで進み、議論も低調で、その結果3兆円からの分担金を、日本国民が背負うという訳です。私たち主権者は、35年前、密約問題を下半身問題へとすり替えることを政府に許してしまったことを、明日の裁判でもう一度思い起こし、判決と各界各人の反応を、注意深く見守りたいと思います。

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