加山又造展と景徳鎮千年展
茨城県近代美術館で「加山又造展」を観ました。加山又造は、同じ西陣の出身だということで、何となく親近観を感じてきた画家です。しかも作品は、美しいものを美しく、好きなものを愛おしく、そして悲しいものを悲しく表現し、画いています。素直だなあ、と心から思い、作品を観る私も、素直に加山の作品世界に入っていけるように思いました。
加山は、猫が好きです。今回出品の『華と猫』と『凝』の2作品では、ペルシャ猫の持つ崇高さを美しく、しかしあくまでも愛おしく画いています。きらっと光る爪は、次の瞬間の動きを予感させます。猫好きにとっては、藤田嗣治の猫同様に、たまりません。
2枚の裸婦像『黒い薔薇の裸婦』『白い薔薇の裸婦』は、ともに不思議な雰囲気で、品のいいエロチスムが、描かれています。真紅のマニュキアに彩られた四肢の爪と真っ黒の陰毛が、印象的でした。
いつも美術館訪問時にやる「1枚の作品」選びは、今日は到底無理です。すべての作品を、「1枚の作品」としたいような気分です。が、自分に課した宿題なので、あえて選択すれば、それは『冬』です。
加山は、「冬が限り無く好き・・・冬の持つ冷たく透明な厳しさが好き」と書いていますが、彼の描いた『冬』は、寂寥感の漂う暗く美しい絵です。画面ほぼ中央に、1本の高く細い裸木に、俯いた盲目のカラスが、嘴を少しひらけてとまっています。木の左側では、落葉したカラマツ林の雪上から、腹を空かせた狼が、1頭は崖下に向かって獲物を探し、他の1頭は、後ろを振り返り警戒しています。右側には、雪を頂いた険峻な山並みが見渡せ、その谷間に向かって、多くのカラスたちが、吸い込まれていくようです。カラスは、50羽ほど数えることができました。中央の俯いたカラスは、とびたつことを諦めたのでしょうか。心に残る作品です。帰宅後、この『冬』の絵葉書を額縁にいれ、ブリューゲルの『雪の狩人』と並べて、部屋の壁に架けてみました。加山の絵の寂寥感が、いっそう際立ちました。
美術館へ行く途中、板谷波山の作品を観るために、笠間の県立陶芸美術館へ寄ってみたところ、『景徳鎮千年展』をやっていました。宋の時代から元・明・清にいたる各王朝時代に作られた白磁、青白磁、青花、色絵磁器など、すばらしいコレクションが展示されていました。とくに青花、日本でいう染付は、ほれぼれします。
第2会場に行って、驚きました。毛沢東のために作られた食器類が、展示されていたからです。文化大革命末期の1975年、景徳鎮のトップクラスの職人たちが、最良の材料を使って1400度の高温に焼き上げた1000点が、北京へ送られました。この計画を「7501工程」と称したといいます。かの文革期は、「毛沢東王朝」が築かれていたのだなあと、改めて感じ入りました。それにしても、その作品たるや、見事な出来栄えです。混じり気のない純白の白磁のうえに、紅梅の花が描かれた食器、文房具、喫煙具、喫茶具など。「玉のように白く、鏡のように明るく、音は磬(けい)のように」というのが、製作目標だったといいます。
明るく華やかな紅梅の姿からは、あの文化大革命を想像することは、なかなか難しい。紅衛兵たちが、あらゆる伝統と文化を破壊しょうとしていた同時期に、中国伝統工芸の美の極致ともいうべき景徳鎮の陶磁器が、毛沢東のために作られていたのです。
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