栄西著『喫茶養生記』を読む
島田市金谷の牧の原台地の高台に、牧の原公園があります。大井川を見下ろし、遠く富士山や南アルプスを眺望することのできる、景勝の地です。この公園の一角に、茶祖栄西の石像が立っています。
栄西は、1168年28歳のとき宋に渡り、禅宗の教えを学び6ヵ月後に帰国します。また1187年、47歳のとき再び入宋を果たし、4年余の修行を経て、帰国しました。源頼朝が鎌倉に幕府を開く直前の頃です。栄西は、宋から茶の種を持ち帰るとともに、喫茶の風習を、日本にもたらしました。
この喫茶の風習を広めるために書かれたのが、『喫茶養生記』です。1211年、栄西71歳のときの著述。上下2巻からなり、上巻では、茶の効能や製法が記述され、下巻では、桑の効能が説かれます。茶と桑の効能を説いたことから、室町時代には『茶桑経』とも呼ばれました。
茶者養生之仙薬也。延齢之妙術也。山野生之其地神霊也。人倫採之其人長命也。
茶は養生の仙薬であり、人の寿命を延ばす妙術を備えたものである。山や谷にこの茶の木が生えれば、その地は神聖にして霊験あらたかな地であり、人がこれを採って飲めば、その人は長命を得るのである。(古田紹欽訳)
日本最初の茶の本にして、まことに見事な冒頭文、としか言いようがありません。今日では、緑茶の効能・効果を書いた本やサイトは、随分沢山ありますが、それらの基になったのが、800年前に書かれたこの『喫茶養生記』なのです。
では、どのような効能が、茶にあるのでしょうか。栄西は、中国の書等を紐解きながら、次のような茶の効能を列挙しています。
①身体衰弱、意志消沈のときは、心臓が悪くなったと見て、頻繁に茶を喫すれば、気力が強く盛んになる。②茶を飲めば、人を愉快な気持ちにさせ、酒の酔いを醒まし、睡気を起こしめない。③茶を服用すれば、小便の通じが良く、喉の渇きをとりさり、消化不良をなくす。④茶を喫すると身を軽くし、脚気によい。⑤茶は精神を整え、内臓を和らげ、身体の疲労をやすらかに除く。⑥酒を飲んで喉が乾いたときは、ただ茶を喫すればよい。
『喫茶養生記』に書かれた茶の効能・効果を見ますと、既にこの時期(つまり800年前)までに、カフェインの覚醒・利尿・強心作用、ビタミンCの脚気予防などの効能が、経験的に知られていたことが分かります。そして、なによりも「気持ちを愉快に」「精神を整える」「疲労を除く」などのトータルの評価が、眼を引きます。喫茶の風習が、当初は座禅のときの居睡りを防ぐためであったようですが、その後、武士や町民層にまで広がっていき、日本文化の中核的な存在になっていくのですが、その理由は、この茶のもつ総合的な効能・効果に起因するのだと思います。
八十八夜の頃に、茶を話題にするといつた風習は、いつ頃からあるのでしょうか。私も、その習慣に倣って、前回に引き続き、お茶を話題にしました。新茶を嗜みながら、『喫茶養生記』をどうぞ。
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