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2007年7月31日 (火)

小田実さんの死

  小田実さんが、亡くなられました。胃がんの療養中だとのニュースは、2,3ヶ月前に聞いていましたが、随分と病気の進行が早かったようで、訃報を聞き少々驚きました。心からご冥福をお祈り申し上げます。
 一度だけ、小田実さんの姿を拝見したことがあります。同志社大学の講堂で開かれたベ平連によるベトナム反戦集会でした。壇上には、小田さんはじめ、鶴見俊輔さん・高橋和巳さん・飯沼二郎さん等の面々が、顔を揃えていました。今にも崩れそうな繊細さを感じさせる高橋和巳さんと比べ、小田さんは大変骨太な感じの人だった記憶が、残っています。このメンバーも鶴見さんを除き、みんな亡くなってしまいました。
 ベトナム反戦では、私はおもにべ平連のデモに入っていました。ひとりひとりの思いと表現を大切にする、このグループのなかでデモることに、一種の心地良さを感じていたようです。
 小田実さんの「人間みんな、ぼちぼちや」という大阪言葉が、聞こえてくるようです。
 
 

2007年7月30日 (月)

花の山 至仏山へ

 週末は、気の置けない友人たちとの年1回の尾瀬行きでした。5年目の今年は、至仏山山頂を目指しました。前日は、湯の小屋温泉の葉留日野山荘に泊まり、熱い温泉と美味しいお酒で、翌日の山登りのための英気を養いました。ここは、小学校分校を山小屋風に改造した、清潔でのんびりした山荘でした。なかなかの気に入りとなりました。翌朝は6時30分に登山口の鳩待峠に向かいました。登山は、鳩待峠と至仏山を往復するコースです。主な行程は、次の通りでした。
 7.55 鳩待峠・発―9.30 オヤマ沢田代―10.20 小至仏山―11.20 至仏山・登頂・昼食―11.40下山へ―13.50 鳩待峠・着 約6時間。
 
左は至仏山山頂を望む  右は山頂から小至仏山途中の美しい岩場。

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2007年7月24日 (火)

映画『殯の森』

 河瀬直美 監督作品『殯の森』を観ました。
 青空のもと、ゆったりと風に揺れる森の木々。刈り込みを終えた茶畑の間の小道を、村人たちの野辺送りの列が、鉦の音を静かにともないつつ、進んでいきます。この村の里山に、昔ながらの広い農家を利用した、軽い認知症の老人たちが共同生活をするグループホームがあります。主人公は、そこに住む70歳の男性しげきと、新任介護士の真千子。しげきは、33年前に若くして亡くした妻との思い出にこもり込み、静かな生活を送っています。真千子は、子供を事故でなくしそれが原因で夫とも別れ、深い喪失感のなかに浮遊しているようです。ともに掛け替えのないひとを亡くした二人が、介護する・される立場で、偶然に出会います。

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2007年7月22日 (日)

イギリス、湖水地方

 家内がベルギーの娘のところに出掛けて1週間、愛犬2頭とともにおとなしく留守番中。ウィークデイは、仕事をやりくりして愛犬たちの夕方の散歩と給餌に間に合うように帰宅し、いつもより大仰に尾っぽを振って喜びを表す愛犬とともにすごしました。週末は、2人の孫たちが通う保育園の夏祭りを見るために、デジカメを提げて出掛けました。6歳と3歳の孫娘たちは、浴衣を着せてもらい、得意気にカメラに収まりました。
 久々に、何もすることがない日曜日。終日読書デイと決めてかかり、家内が娘と一緒に夏休みを楽しむという、イギリス湖水地方の旅行記を半日読みました。
 谷村志穂著『イギリス、湖水地方を歩く』(岩波書店 04年刊)。

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2007年7月20日 (金)

トルコ、イスラムそしてオルハン・パムク『雪』

  今日の朝日新聞朝刊に、22日実施のトルコの総選挙情勢の特集記事が、掲載されました。冒頭「国民の大半はイスラム教徒だが、ケマル・アタチュルク初代大統領以来80年余、政教分離の世俗主義を貫いてきたトルコの政治体制が大きな瀬戸際に立たされている」と報じています。主たる対立は、イスラム主義の流れをくむ与党の公正発展党(AKP)と政教分離の世俗主義の共和人民党(CHP)との間にあります。AKPは、「世俗主義は守りながらもイスラム的価値観の尊重は自然だ」という立場で、民主的な選挙で国民多数の支持を得ています。一方CHPは、「民主主義は大事だが、世俗主義が崩れればイスラム原理主義が広がり、民主主義の土台が崩れる」と主張します。そして「西洋的世俗主義を訴える者が強権的な力の行使を否定せず、親イスラム勢力が民主主義を重んじるという「ねじれ現象」がトルコ情勢を複雑にして」います。そして、世俗主義の守護者としての軍部が、政治に睨みをきかせています。
 イスラム原理主義が広がりつつあるパキスタンの首都イスラマバートで、モスクに立てこもったイスラム神学生を政府軍が武力で鎮圧し多数の死傷者を出したのは、10日前のことでした。武力鎮圧後パキスタン各地で、テロの嵐が吹きまくり、既に50人以上の死者を出したと読売新聞は伝えています。
 この10日間ばかり、たまたまトルコ人のノーベル賞作家オルハン・パムクの『』を読み続けていました。この小説は、トルコにおけるイスラム主義と近代主義、原理主義と世俗主義、過激主義と穏健主義等々が複雑に絡み合う情況を見事に描いた政治小説です。上記のトルコやパキスタンの「現在」が、そのまま小説世界に描かれています。 

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2007年7月16日 (月)

『浜田知明展』そして大川美術館

   昨晩のNHK「新・日曜美術館~アートシーン~」で紹介された桐生市の大川美術館で開催中の『浜田知明展』に行ってきました。浜田知明も大川美術館も、今回の番組ではじめて知りました。
  自宅から車で1時間余、桐生市を眺望できる水道山という小高い山の中腹に、小さな美術館がありました。周囲は人気も少なく、閑静な公園になっています。 この美術館は、当地出身の実業家大川栄二さん(元ダイエー副社長)の、40年間にわたるコレクションが展示されています。旧第一勧銀社員寮を改築し美術館としたものです。

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2007年7月11日 (水)

参議院議員選挙公示

  明日7月12日、参議院議員選挙が公示されます。今回の選挙に対する考えを整理しておきたいと思います。
  前回引用したヴァイツゼッカー演説の思想的な背景を解説した論文に、物理学者・哲学者である兄のカール・フリードリッヒの話が出てきます。外交官だったこの兄弟の父は、戦後ニュルンベルク裁判で5年の刑を宣告されたのですが、その父について兄カールが語っています。「父は、他の多くの仲間と同じように、ヒトラーを過小評価するという失敗を犯したのです。こんなに非理性的で良心をもたないイカサマ師が長続きする筈はない、と彼は考えたのでした。」(村上伸稿「ヴァイツゼッカー演説のいくつかの背景」『荒れ野の40年』岩波ブックレット '86所収)
  わたしは、今回の参院選について、この引用文を熟読することから考えはじめます。

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2007年7月 8日 (日)

歴史と向き合うこと

 昨日7月7日は、本格的な日中戦争のきっかけとなつた盧溝橋事件の、70周年の記念日でした。この事件は、1937年7月7日夜、北京郊外の盧溝橋の近くで演習をしていた日本軍が、何者かによって銃撃を受けたとして中国軍を攻撃したもの。日本軍は、この盧溝橋事件を切っ掛けに、中国各地に軍を進め、全面的な日中戦争へと突入しました。
 この日は、侵略した側の日本では、政府の行事としても民間のものとしても、一部の例外を除けばほとんど記念行事は行われていません。しかし、侵略された側の中国では、「7.7事変」と呼んで国の重要な記念日となっています。

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2007年7月 1日 (日)

『上海クライシス』を読む

 春江一也著『上海クライシス』(集英社2007/4/30刊)を読みました。
 小説末尾に、作者による次のような書き込みがあります。
 (この作品は2005年に発覚したいわゆる「在上海日本総領事館員自殺事件」にヒントを得たものですが、フィクションです。従って、作中の登場人物は・舞台設定ならびに歴史的・文化的解釈は作者の創作であり、実在の人物とは一切関係ありません)
 しかし、江沢民や胡錦濤そしてライス大統領補佐官などが、物語の主要な背景を構成する人物として登場し、フィクションといっても、ノンフィクションとの境目がどのあたりにあるのかを探りながらの読書でした。だから、スパイ小説によくある奇想天外な展開にハラハラしながらも、リアルな現代の歴史を読み解いていくような愉しさを味わいました。今朝の日刊ベリタは、「上海リニア鉄道事業の挫折」を「胡錦濤政権は江沢民前政権下で全盛を誇り腐敗度を増した上海閥への粛清策」との解説記事を掲載していますが、これぞまさに、本書の描く舞台そのものです。

 著者の春江一也さんは、外務省で大使館や領事館の在外勤務を経験し、在職中に出した『プラハの春』(1997集英社刊)で作家デビューしました。春江さんの作品は、いずれも外務省在外勤務の経験をベースに書かれており、外交と情報活動の実態が極めてリアルに描かれ、物語の世界に引き込まれていきます。また、その歴史的な事件についての、現場に居合わせた者のみのもつ臨場感と詳細な情報は、現代史理解のうえでも貴重な史料を提供しています。

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