『上海クライシス』を読む
春江一也著『上海クライシス』(集英社2007/4/30刊)を読みました。
小説末尾に、作者による次のような書き込みがあります。
(この作品は2005年に発覚したいわゆる「在上海日本総領事館員自殺事件」にヒントを得たものですが、フィクションです。従って、作中の登場人物は・舞台設定ならびに歴史的・文化的解釈は作者の創作であり、実在の人物とは一切関係ありません)
しかし、江沢民や胡錦濤そしてライス大統領補佐官などが、物語の主要な背景を構成する人物として登場し、フィクションといっても、ノンフィクションとの境目がどのあたりにあるのかを探りながらの読書でした。だから、スパイ小説によくある奇想天外な展開にハラハラしながらも、リアルな現代の歴史を読み解いていくような愉しさを味わいました。今朝の日刊ベリタは、「上海リニア鉄道事業の挫折」を「胡錦濤政権は江沢民前政権下で全盛を誇り腐敗度を増した上海閥への粛清策」との解説記事を掲載していますが、これぞまさに、本書の描く舞台そのものです。
著者の春江一也さんは、外務省で大使館や領事館の在外勤務を経験し、在職中に出した『プラハの春』(1997集英社刊)で作家デビューしました。春江さんの作品は、いずれも外務省在外勤務の経験をベースに書かれており、外交と情報活動の実態が極めてリアルに描かれ、物語の世界に引き込まれていきます。また、その歴史的な事件についての、現場に居合わせた者のみのもつ臨場感と詳細な情報は、現代史理解のうえでも貴重な史料を提供しています。
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