サティのジムノペディ
車内や部屋でよく聴く音楽に、エリック・サティ(1866-1925)のピアノ曲があります。娘の置いていったCDのなかの1枚で、なかでも『ジムノペディ 1.2.3』(『サティ大好き』PHILIPS)に心惹かれ、私のベストコレクションのひとつとなっています。静かにゆっくりと、しかし、決して力強さを失わずに、ピアノの美しい音色が流れます。ピアノの持つ本質的な美しさを引きだすために作曲された、そんな感じの曲です。サティの指示は、
第1番 ゆっくりと悩めるごとくに
第2番 ゆっくりと悲しげに
第3番 ゆっくりと厳かに
このCDを聴くまでは、サティという作曲家は知りませんでした。生涯、奇行と風変わりな出で立ちで過ごし、ただ一度の恋、その相手は、画家ユトリロの母シュザンヌ・ヴァラドン。音楽そのものとともにその人生も、強く惹かれる作曲家です。
このCDのピアニストは、ラインベルト・デ・レーウ。オランダ人のピアニスト・指揮者・作曲家で、サティのスペッシャリストとして有名だそうです。ゆったりとふくよかなピアノの音色は、ベルギーの画家マグリットの、青空に浮かぶ白い雲を思い起こさせます。あくまでも静かに、そして動きを止めないで。同じCDのなかに、ドビュッシー編曲によるジムノペディのオーケストラ版が入っています。ピアノ曲同様、心なごませる音楽を、しみじみと愉しむことができます。ただ10分足らずの曲なので、心地良くなったころ次の曲に変わってしまいますが。
こうしてサティがお気に入りとなり、半年ほど前に別のCDを買いました。『サティ・ピアノ作品集1-2』(DENON ピアノ:高橋悠治)。やはり、最初にジムノペディが入っていました。さっそく聴いてみて、がっかりというかびっくりというか、私が心惹かれたサティが、このCDにはありませんでした。「ゆっくりと悩めるごとくに」と作曲者に指示された第1番は、「たんたんと素っ気無く」となっていました。正直のところ、別の曲と勘違いしたほどです。音楽演奏が再現芸術だ、ということを始めて体験しました。ちなみに両者の演奏時間を比べてみますと、デ・レーウ版は15分39秒、そして高橋版は8分14秒。
今秋に発売されたナターシャ・マーシュのCD『アモール 愛のストーリー』に、ジムノペディ第1番が入っていました。マーシュのすんだ美しい声は、サティの魅力を存分に発揮するものでした。この冬は、マーシュの歌うジムノペディが、夜長の愉しみとなりそうです。
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