« オン・ザ・ロード | トップページ | 初冬の里山 »

2007年12月14日 (金)

サラエボの花

 ヤスミラ・ジュバニッチ監督作品『サラエボの花』を観ました。
 1992-95年の内戦から10年ほどたったボスニア・ヘルツェゴヴィナの首都サラエボ。繁華街は買い物客で賑わい、ナイトクラブでは男と女が踊りや歌を愉しんでいます。こうして平和の戻った街で、シングルマザーのエスマと12歳の娘サラは、つましいながらも親子仲睦まじく暮らしています。男子生徒に混じってサッカーに興じるサラは、修学旅行を楽しみにしています。内戦で犠牲となったシャヒード(殉教者)の子供には、旅費は免除されるとのはなしを聞き、サラは母親のエスマに、父親がシャヒードであったことの証明書をとるように求めます。しかしエスマは、話をはぐらかしひたすら金の工面に走ります。母親の態度に、何か不自然さを感じながらも日がたっていき、サラは苛立ちます。容易に金の工面できないエスマは、苦悩を深めますが、その苦悩の底には戦争中の悲惨な体験が横たわっていました。戦争中、彼女に何があったのか?
  

 この映画は、サラエボ生まれの若い女性監督初の長編作品。06年ベルリン映画祭金熊賞(グランプリ)はじめ、世界各地の映画祭で各賞を受賞しています。ボスニア戦争をテーマとした映画では、ダニス・タノヴィッチ監督作品『ノー・マンズ・ランド』があります。二人の監督は、ともにボスニア・ヘルツェゴヴィナ生まれで、ほぼ同じ世代です。『ノー・マンズ・ランド』が、戦争の絶望的な情況を描きながら、世界の人びとに、戦争の愚かさと哀しさを痛烈に訴えたのに対して、『サラエボの花』は、戦後の平和な日常のなかに深く影を落とす戦争の傷跡を、母子のあいだの衝撃的な対立と和解のなかに描き、生きることの希望を私たちに伝えてくれます。最後の母子の和解のシーンは、さり気なく印象深い映像として、私の心の中にいつまでも残るような予感がします。 
 
 
 
 
 

« オン・ザ・ロード | トップページ | 初冬の里山 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: サラエボの花:

« オン・ザ・ロード | トップページ | 初冬の里山 »