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2008年1月19日 (土)

医療崩壊

  昨晩TBSのNews23で、「救急医療現場の悲鳴」と題した特集が、放映されました。大阪守口市にある関西医科大学付属病院高度救命救急センターの、一人の医師の一日を追った10分たらずの特集です。
 救急救命センターは、重症の救急患者の命を救う「最後の砦」ともいうべき施設。一人の若い医師の、午前9時から翌日同時刻まで24時間の、二人態勢による当直勤務が始まりました。最初に飛び込んできたのが、階段から落ちて手首を骨折した患者。ここへ来るまでに、21ヶ所の病院で断わられました。命には別状のない患者でした。
 12月25日、89歳の救急患者が、30ヶ所の医療施設から断わられ死亡しました。1月2日、交通事故の被害者が、5ヵ所で断わられ死亡するという事件がありました。この被害者は、この救急センターにも連絡があり、他の救急患者の治療中のため断わったといいます。遅い昼食に、出前の冷たく伸びたうどんを食べる医師たち。何故多くの病院が、救急患者の受け入れを断わるのか。同救急センターの医師は、受け入れを断わる病院は、専門医がいないことを理由とすること、そして医療過誤による裁判を恐れること、と指摘します。このため、同救命救急センターはパンク寸前の状態にある、といいます。
 早朝5時、首をつった患者が運び込まれます。交代時刻の9時。次の当直医に申し送り中に、灯油をかぶった火傷の救急患者が運び込まれ、と同時に、老人ホームで倒れ心肺停止状態の女性が到着します。2人の患者の治療中に3人目の救急患者受け入れの要請があり、断わらざるを得ない状況に。若い医者はいいます。「拒否とかいわれると辛いんです!」。前日の9時から当直していた医師は午後4時、帰宅の途につきました。31時間に及ぶ勤務でした。
 

 「世界」2月号の特集『医療崩壊をくい止める』(岩波書店08.2刊)は、救急車で「たらい回し」されたあげく亡くなるなど、「日本の医療が、近年急速に荒廃し、崩壊の危機に瀕している」として、その実態を明らかにし原因を探ろうとしたものです。
 日野秀逸(東北大学)さんは、小泉内閣時代の「医療構造改革」による医療費抑制政策が、「地域医療崩壊現象」をもたらしたと指摘します。日野さんの論稿から、日本の医療費抑制政策の指標数字を引用します(日野稿『医療費抑制政策からの転換を』)。
 1.需要=受診抑制のための施策
  ①自己負担の増大:本人負担1割⇒2割(97年)⇒3割(03年)
  ②医療費負担割合:国庫80年30%⇒03年25%、家計80年40%⇒03年45%
 2.供給=医療サービス抑制のための施策
   医師養成抑制により医師数はOECD30ヶ国平均に比べ12万7千人不足している。
   OECD  70年120人/10万人⇒04年310人/10万人
   日 本  70年110人/10万人⇒04年200人/10万人
 3.医療費の国際比較
  ①国民一人当たり医療費:70年 先進9ヶ国中8位、04年同12ヶ国中11位
  ②医療費総額をOECD30ヶ国平均値にするには4兆5千億円追加の必要。
   対GDP比 04年 OECD 30ヶ国平均 8.9%、日本8.0%

   宇沢弘文(理論経済学)さんと出月康夫(日本臨床外科学界会長)さんは対談の冒頭、1961年に始まった日本の国民皆保険制度を、次のように高く評価しました。(対談『社会的共通資本としての医療をどう守るか』より)
 出月「公的保険、社会保険で、医療を全国民に平等に、しかもアクセスをフリーにして行われたということは、世界にもないことだし、これによって日本国民が医療の恩恵を享受することができるようになりました。」
 宇沢「原則として強制的に加入しなければならない。しかも、医療を供給するお医者さんは、自分が考えていちばんいいと思われる医療を患者さんに供給するわけですから、当然赤字が出る。その赤字は基本的には税金でカバーするというのが社会保険の考え方です。憲法25条という、憲法の中でも一番重い条項が社会保険の基礎にあるわけです。」
 日本の医療費の水準については、両者とも、先進国の中では非常に低いと指摘されます。
 宇沢「日本の国民医療費は、一昨年あたり大体32兆円ぐらい・・・パチンコ産業が30兆円・・・医療費が高すぎる(ということは)信じられない。
 出月「医療費を低く抑えるために意識的に国民に知らせていない・・・日本の医療費は先進国の中では非常に低い部類です。」
 医療崩壊の先例をイギリスに見ています。
 宇沢「イギリスでは、大蔵省は・・・予算を出さない。病院の建設はほとんど認めない。新しい機械、設備は入れない・・・病院勤務医の給与体系を極端に低くした・・・そのため、大量のお医者さんが外国に出ていってしまつた・・・そこへもってきてサッチャーが・・・徹底的な医療費抑制と官僚的管理を強めて、世界でも夢のような医療だつたイギリスの医療が完全に崩壊してしまう。」
 出月「全く同じことが日本でも起こり始めている・・・病院が崩壊し・・・開業医もやっていけない・・・医療費の上限を国が32兆円と決めてしまっているために、病院の財政はすごく悪くなっています。」
 病院財政の赤字の根本原因として、診療報酬の決め方の問題が、語られます。医師の技術力は評価されないこと、しかも非常に低く決められていること。
 こうした医療崩壊の背景に、経済学者たちの果たした役割があると、厳しく指摘されます。
 宇沢「小泉政権では、経済財政諮問会議(の)・・・市場原理の毒を飲んだ経済学者・・・は、マクロ経済的に見て、適切な医療費というものを勝手につくってきて、それに合わせるために医療費を抑制する・・・次から次に非常に乱暴な抑制政策をやって、いまの惨状を招いた・・・。市場原理主義・・・は・・・シカゴ大学のフリードマンが強力に主張した・・・人生の最大の目的はもうけることで、倫理的、社会的、人間的な価値は無視してもいい。それが最初にアメリカで起こって、アメリカの医療制度さらに社会全体が崩壊していく・・・その後、まずチリにいくんです。私がシカゴ大学に行ったときに、あるパーティーがあって、アジェンデ大統領が虐殺されたニュースが入った。そのとき、フリードマンをはじめとするシカゴの市場原理主義者が歓声を上げたんです。そして次の大統領のピノチェットが・・・チリの銅山を民営化して、アメリカ資本のもうけの対象にするといった政策を行い、それに反対する人たちは秘密警察に殺されていきました。私の友人とか、かって学生だった人も何人かいますが、私は市場原理主義者というのは許せない。小泉政権のもとで市場原理主義が積極的に輸入され、次から次へともうけの機会をつくつた。その一貫として、医療・教育とか、日本のいちばん大事な社会的共通資本のコアが壊されつつある。」
  宇沢弘文さんの市場原理主義およびその担い手に対する批判は、痛烈であり徹底的です。対談の最後に、今何をすべきかが、それぞれから語られます。
 出月「いまの状況が5年続いたら、日本の病院医療は完全にだめになります。・・・医者も社会に向かって発言する責務がある・・・。患者さんとの信頼関係、医療に対する国民的合意がなければ、医療は成り立たない・・・」
 宇沢「大事な社会的共通資本である、医療と教育のためにはどれだけお金がかかってもいいというのが、国民の大勢の人たちの気持ちだと思う・・・。できるだけ大勢の人が医療と教育という職業に従事して、日本の社会を安定的に維持していく必要がある・・・。同時に、社会的にも経済的にも、医療と教育を支えている職業的な専門家をもっと大事にして、大勢の子供たちが医療と教育という分野を職業として選ぶような雰囲気を一つの大きな流れにしていく必要がある・・・。」
 小泉構造改革のなかで、あらゆる分野に民営化と市場化の流れが、浸透してきました。医療と教育と農業は、最後に残された数少ない社会的共通資本です。この分野への市場原理主義者の攻撃に対して、どのように反撃していくのかが、いま厳しく問われています。すべての政党と政治家は、このことについて明確なメッセージを発するべきです。そして私たち有権者は、彼等の主張をじっくり見極め、来る衆院選挙にて的確な判断をしなければならないと思います。

 
 

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