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2008年2月10日 (日)

ピカソの『ゲルニカ』とは?

Photo_2   いままで観たなかで、その印象が強烈でいつまでも気にかかっている絵画のひとつに、ピカソの『ゲルニカ』(1937)があります。
 数年前マドリードへいったときのこと、喧騒のプラド美術館を出たあと向かったのは、国立ソフィア王妃芸術センターでした。先の美術館とは違ってひとはまばらで、日本の地方のそれのように、大変静かで落ち着いた空間が広がっていました。ピカソ、ミロ、ダリなどの20世紀の作品が集められており、そのなかにピカソの大作『ゲルニカ』がありました。3.5m×7.8mの大画面の前では、10人前後の人々が、ある人は腕を組み、ある人は頬に手をあて、そしてある人は姿勢を正して、その場にたたずんだまま『ゲルニカ』を直視していました。姿勢はまちまちでも、観者たちに共通していたのは、曖昧さや好い加減さはなく、畏敬の眼差しで長時間その場に立ち尽くしていたことです。各々が、ピカソのメッセージを読み解こうと、考え込んでいるようでした。『ゲルニカ』は、この場で観者たちが漂わせていた雰囲気も相まって、一層強烈な印象を私に残しました。

 宮下誠著『ゲルニカ ピカソが描いた不安と予感』(光文社新書 08.1.20刊)は、ピカソのメッセージを読み解く道筋を、読者に指し示してくれます。特に、素描から完成画ができるまでの制作過程を追った第2章は、『ゲルニカ』で表現されたひとつひとつのモティーフが持つ意味について、制作段階を追いながら書き記され、ピカソのメッセージを読み解くための重要なヒントを与えてくれます。この章の記述を引き継ぐ形で整理された「イコノロジーの視点」を中心に、宮下氏の『ゲルニカ』の読み解きを見ておきます。

 ①牡牛:この絵画を観て最初に眼に入ったのは、左端に描かれた「牡牛」です。悲しげな両方の眼が、観者を見つめています。著者は、暴力の象徴としてのフランコ、スペインの形象化されたもの、災厄を見届けるピカソなどと、最も多義的な形象としています。そして「より普遍的に捉えれば、善悪を超越した盲目的な破壊と創造の原理を形象化したもの」としていますが、少し難解です。私は、この牡牛が観者を見つめているという最初の強い印象と、他のモティーフが悉く爆撃の被害者でありながら唯一被害から免れていることから、ゲルニカの被った災厄を見届けたピカソその人だと思います(以後この本からの引用は「 」)。
 ②瀕死の馬:画面中央で、大きく口を開けて嘶く馬。「フランコに蹂躙されたゲルニカ(または共和制スペイン)」「瀕死のヒューマニズム」はわかりよい。「闘牛の残酷さとそれに伴う興奮を盛り上げるために、あたかも添え物のように観衆に供される馬の無惨な死が、ピカソの中で空爆による無辜の人々の残虐な殺され方とオーヴァラップしているのではないか」という説明も、説得的です。面白いのは、馬の胴体や脚部に描かれた無数の破線を、新聞紙面と解釈していることです。「ゲルニカの悲劇を新聞という媒体で知ったピカソが、その報道のあり方を画面に反映させた」と思って観てみると、なるほどと納得します。
 ③灯火を捧げだす女:「ヨーロッパ絵画の図像伝統で蝋燭、灯火は「真理」を象徴する」。フランコの暴虐を見よ、ということか。
 ④死んだ兵士:まずは「フランコ・ファシズムの犠牲となった戦士」。兵士の右手の折れた剣に挿された一本の花(復活を意味するアネモネ?)から、死と復活の象徴を見ようとしています。
 ⑤死児を抱いて泣く女:画面左隅、牡牛の真下で、胸をはだけた女が死んだわが子を抱いて、泣き叫んでいます。著者はこの図像に、十字架から降ろされたキリストを抱くマリア=ピエタ像と、ヘロデ王によるベツレヘムの嬰児殺害を描いた嬰児虐殺像を重ねてイメージします。そして「キリストの死と再生の物語を連想させる象徴」としています。
 ⑥画面左側から中央に向かって走りこむ女:兵士や泣く女を悲劇性の象徴とみるのは容易ですが、この走りこむ女の無表情な顔は、どのようにみるのでしょうか。「画面のあまりの厳しさ、悲劇性、大袈裟に対するピカソのバランス感覚」と解釈しています。
 ⑦建物から落ちていく女:私は、窓の外に助けを求める女、と解釈していましたが、著者は「建物から落ちていく女」と観ています。この違いは、画面全体を建物の中とみるか外とみるかから来ています。
 ⑧ランプに描き込まれた縮小した太陽:女の捧げだした灯火のすぐ左側のランプを「縮小された太陽であり、神の眼であり、すべてを明るみに出す証人」としています。灯火が「真理」とすれば、まさにこの真理を明るみに出す太陽というのは、説得的。
 ⑨テーブルの上の鳥:「聖霊」と「平和」の象徴。鳥の両目が描かれているのですが、やや遠くから見ると、左の眼が涙のように見えます。そのほうが、『ゲルニカ』に相応しいと思いますが、如何でしょうか。
 ⑩全体としての解釈:「キリスト教的黙示録のヴィジョン、死と再生の息詰まるドラマ、ヒューマニズム救済の希求、すべてを見抜く神の眼差し、それでも繰り返される不条理な諍いと死、人間の愚かさと賢明さ、人知を超えた明暗、善悪の葛藤の象徴的表現の最良の成果」。
 以上が、著者による『ゲルニカ』のイコノロジーの視点からの解釈でした。そして本書の最後のほうで、著者は「無垢の市民を瞬時に殲滅する空爆こそ20世紀の戦争の・・象徴」と断じ、『ゲルニカ』こそ20世紀の戦争の惨禍を、先見的に描いてみせたものだと主張します。著者の、用語はやや難解なところがありますが、その論理は明確で、大変説得的です。『ゲルニカ』を観る眼が、一段と豊かになりました。

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