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2008年2月16日 (土)

ベルナール・ビュッフェ美術館

P1010255  ビュッフェ美術館は、JR三島駅からシャトルバスに乗って約25分、終点の小高い森の中にありました。三角形の建物の白壁にはビュッフェのサインが大書され、モダンなデザインが魅力的でした。まわりは木々にかこまれ、開館直後で私たち以外に来客もなく、静かな気持ちのいい朝でした。
 フランスの画家ベルナール・ビュッフェ(1928~99)の作品2000点が集められた、世界でただひとつのビュッフェのための美術館です。

P1010248 美術館の前庭にブロンズの彫刻がありました。クワガタ虫(1975)。ビュッフェの年譜には、11歳でリセ・カルノーに進み博物学に興味を持ったとあります。前庭には蝶のブロンズ像もあり、館内にあったカンヴァスいっぱいに大きく描いた昆虫や蝶の油彩画とともに、ビュッフェの少年期の夢が、作品に生かされています。           美術館に入り、初期の作品を観ながら回廊を奥へ進むと、灯りを落とした暗い部屋がありました。ビュッフェの製作中の映像が大画面に流れていました。恐らく40代前後の映像だと思います。この部屋に展示されていた、第二次世界大戦後に書かれたビュッフェ青年期のモノクロームの作品に、強く惹かれました。
 新館への廊下壁には、ビュッフェのサインの変遷が掲げられ、彼のサインへのこだわりのあとを追うことができます。20年前に増設された新館は全面吹き抜けで、高い天井からは自然光が降り注ぎ、明るく暖かい広い部屋になっています。名作の数々が、その贅沢な空間を満たしています。どの作品も、強くて鋭い黒の輪郭線が、形に曖昧さを与えず、あくまでも具体的です。私の兄が、ビュッフェの静物画や風景画を好み、よくポスターを部屋に飾っていました。それを見て、太い黒の線と格好好いサインが印象的で、部屋を飾るにふさわしい画家だなあ、と思っていました。そして今回初めて、100点近くの作品を観て、ビュッフェ作品の多義性と社会性を知りました。単なる人気のある具象画家とは違うビュッフェを発見しました。Photo_3
 そのひとつが「肉屋の少年」(1949油彩)。やや逆三角形の頭をもった長身の男性像は、人物を描いたほとんどの作品に共通しています。自画像だと思います。写真は太った肉の塊を見つめるやせ細った肉屋の少年は、憂鬱そうです。異常な手足の細さは、戦後の貧困と飢餓感をうかがわせます。
P1010273 出口に向かう回廊沿いの部屋には、一瞬ギョッとするような大作がありました。『死の海を渡る』(1976/油彩/2.5×5.8m)。ダンテ『神曲・地獄編』で、ダンテが詩人ウェルギリウスの案内で、死人たちの浮き沈みする海を渡っているところを描いています(写真は部分)。自分の部屋に飾ってみたくなるような美しい静物画や風景画を描いてきた画家が、こんなにもおぞましく恐ろしい絵画を描いているのです。

 以前から訪ねてみたいと思っていたこの美術館ですが、周囲の美しい景観に包まれたモダンな建物も魅力ですが、なによりも圧倒的なビュッフェの作品に強く引き込まれ、至福のひと時を過ごすことができました。 
 

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