ウルビーノのヴィーナス
3月4日自宅裏山で、今年初めてウグイスの囀る声を聞きました。昨年より1週間ほど遅いようです。小さなピンクの花、ホトケノザの開花も遅く、周辺ではここ数日にやっと咲き始めたところです。暖冬だった昨年からはずっと遅くれて、西上州の里山にも、春が確実に近づきつつあります。
週央、暇を見つけて国立西洋美術館に、イタリアのヴィーナスたちを観に行きました。古代、ルネサンス、そしてバロック初期の、絵画・彫刻・工芸品に表現されたヴィーナス70点。その中心は、フィレンツェのウフィーツィ美術館から来た、ティツィアーノ(1488-1576)作『ウルビーノのヴィーナス』(油彩119*145cm1538)。
真紅のベットに敷いた白のシーツのうえに、豊かな裸体をさらした若い女が、横たわっています。目を引くのは、あの挑発的な眼差しと、淡く柔らかい金色の肌です。藤田嗣治の乳白色の肌を思い出します。右手に持つ赤色のバラの花が、図像学でヴィーナスを示唆するという。左手は、隠すというより観者を誘惑しているようです。右側で眠る犬は、従順を表すとイヤフォンから聞こえてくる解説。また、彼女を訪ねてきた男性(こちら側にいる)を知っていて、安心して寝ているとも。ルネサンスでもっとも官能的な絵画のひとつです。じっと見詰ていて、すこしづつ顔が赤らんでくるようでした。500年前のヴィーナスに、すこし翻弄されたような気分です。
このヴィーナス像は、ティツィアーノのあとの時代に、裸体画を描く時の基準になったとされる作品です。印象派の先駆者マネは、画学生時代に『ウルビーノのヴィーナス』を模写し、のちに代表作『オランピア』(1865)に結実します。またゴーガンは、マネの『オランピア』を模写し、やはりゴーガンの代表作『マナオ・トウパパウ(死霊が見ている)』を描きました。美術史上の古典的なモチーフが、連綿として引き継がれていった好例です。
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