歴史修正主義の敗北
『世界』6月号は、「歴史修正主義の敗北」と題した特集のなかで、対日「慰安婦」決議の採択が、世界的に広がっていることを紹介しています。アメリカ下院(07年7月30日)のあと、オランダ下院、カナダ下院、欧州議会と続き、フィリピン下院外交委員会(08年3月11日)と韓国国会(07年11月13日)でも、決議案が発議されました。アメリカ下院決議は、安倍自民・公明政権が、参院選において歴史的敗北をしたその日に採択され、メディアにも報じられましたが、他の国々の決議採択については、日本のメディアには無視されたようです。
各国議会で採択された決議概要と抜粋を、『世界』から引用しておきます。「 」は、そのままの引用、それ以外は、要約したもの。
1.オランダ下院決議(07年11月20日採択)
次の3項について、オランダ政府が日本政府に強く要求することを、求めている。
①「1993年に遺憾の念を表明し、強制売春制度の運営についての日本軍の関与に全責任を取るという談話の価値を引き下げるいかなる声明も控える」こと。「遺憾の念」「談話」は、河野官房長官談話のこと。「声明」は、安倍発言や国会議員によるワシントンポスト紙への広告などをさす。
②「現在生存する元慰安婦に加えられた苦難に対して直接的、道徳的な金銭補償の形態を提供するという追加の姿勢を取ること」。
③「日本の学校教材が第二次世界大戦中の慰安婦の運命を含む日本の役割について正確な情報を与えるよう促すこと」。
2.カナダ下院決議(07年11月28日採択)
次の5項について、カナダ政府が日本政府に対して促すべきとしています。
①「1993年の河野談話の反省の表明をおとしめるいかなる声明も放棄すること」。
②「日本帝国軍のための「慰安婦」の性奴隷化や人身売買などは存在しなかったといういかなる主張に対しても明確に公式に反駁すべきであること」。
③「日本帝国軍が強制売春制度に関与したことに対する全責任をとる」こと。
④「被害者全員に対する正式で真摯な謝罪を国会で表明すること」。
⑤「和解の精神で被害者の問題と取り組むこと」。
第2項の、日本政府は「明確に公式に反駁すべき」は、目を引きます。
3.欧州議会決議(07年12月13日採択)
①日本政府の公式謝罪
②被害者(死亡のばあい家族)に対する賠償を行うための効果的な行政機構の設置
③「裁判所で賠償を獲得する障害となっている現行法の不備を取り除くための法的措置を講ずることを日本の国会に要請」
④「“慰安婦”を服従させ隷属させたことは一度もなかった、といった意見に対して、日本政府が公的に論駁すること」
⑤日本人と政府に対して「あらゆる国家の道徳的義務として、自国の歴史全体を認識すること」「“慰安婦”に関連することを含め1930年代から1940年台にかけての日本の行為を認識するために、更なる手段をとることを奨励し、日本政府にこれらの事例を現在及び未来の世代に教育すること」を要請する。
安倍前首相の発言とワシントンポスト紙に意見広告を出した国会議員たちの言動が、いかに国際社会から危惧され、嫌悪され、そして怒りを買ったかが、これらの決議文から窺うことができます。歴史修正主義者たちに対する、妥協のない厳しい国際的非難です。
彼等のもうひとつのターゲットであった沖縄「集団自決」訴訟は、原告側敗訴で一審を終えました。同じ『世界』6月号には、被告であった大江健三郎さんの地裁判決を聞いての感想が、寄稿されており、その末尾に、大江さんの決意表明が、書かれています。「この裁判をつうじて私の新しくしたことは、老年の作家として残り時間は限られていますが、この国に、再び、美しい殉国死という言葉が、その作り手・使い手のいかがわしい意図は見え見えであるにもかかわらず復興されようとしている以上、それに抵抗することを、自分の仕事の核心に置くという決意です」(大江健三郎稿『誤読・防諜・「美しい殉国死」』より)。
歴史と和解について、新しい局面がたち現れているようです。
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