ドキュメンタリー映画『バレスチナ1948・NAKBA』
フォト・ジャーナリスト広河隆一監督作品『パレスチナ1948・NAKBA(ナクバ)』を観ました。冒頭、画面に字幕が流れます。「1948年パレスチナの地にイスラエルが建国された」「70万人以上といわれるパレスチナ難民が発生した」そして「この事件をパレスチナ人はNAKBA(大惨事)と呼ぶ」。映画は、60年前のNAKBA(大惨事)の真実に迫ります。そして、NAKBAは、60年前の歴史の事実であると同時に、この60年間の史実であり、現在のパレスチナの状況そのものであることを、監督は静かに語りかけます。
この映画は、パレスチナの歴史を人類の記憶から抹殺しょうとする暗い企みへの挑戦です。40年にわたり撮り続けられた膨大な量の写真と映像を使い、丁寧に事実を積み上げていきます。残酷な戦闘の場面や無惨な死体が映されますが、決して煽情的にはならず、ひたすら真実をもとめて、淡々と描かれます。
インタビューの相手は、パレスチナからの難民が中心ですが、ちょっと驚いたのは、イスラエルの元右派民兵が登場したことです。彼等の側から見た、貴重な証言が、記憶されます。また、ユダヤ人のなかの平和運動家たちやパレスチナ難民キャンプで医療活動にかかわるユダヤ人医師や看護師も現われ、発言します。映画は、ユダヤ人とパレスチナ人の対立と抗争と殺し合い(戦闘の場面は、間違いなく両者間の争いですが)を描くことを、目的とはしていません。民族を越えた、抑圧する者と抑圧される者との戦いであることが、徐々に、明らかにされます。
最後の場面が、印象的でした。1948年のNAKBA(大惨事)で、故郷を追われた一家の人々が、そこには一世から四世までが含まれますが、パレスチナの、今は廃墟となった村を、60年ぶりに訪れるシーンです。水タバコの道具のかけらを拾い上げる青年、瓦礫の破片を抱く老人。一家の意外な明るさに、希望のようなものが、ほのかに見えてきます。廃墟をバックに撮られた記念写真。一家のひとびとの瞳が、映画を観る世界中の人々に、「パレスチナを忘れないで」と訴えているようでした。
映画が終わり幕が下りた後も、10人前後の数少ない観客でしたが、誰一人席を立つ人は、いませんでした。小さな劇場の明かりが点灯されるまでの僅かな間ですが、監督の、そしてパレスチナのひとびとのメッセージを、真摯に受け止めようとしていました。
この映画の詳細は、映画公式サイトとYouTubeで知ることができます。まずは、予告編をYouTubeでご覧になることを、おすすめします。
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