ヤン・ステーンがおもしろい
青磁の壺に活けられた何十種類もの花たちが、画面いっぱいに描かれています。蝶が二匹、上方の左右に、花の蜜を吸いにきています。右下のテーブルの上には、壺からこぼれ落ちた花とともに、小さな蜂がとまっています。花の細密描写と同様に、壺の紋様も細かく正確に描かれています。ピーター・ブリューゲルの次男、ヤン・ブリューゲル(父)の『青い花瓶の花束』(1608頃)。さすが、「花のブリューゲル」と呼ばれるだけの作品です。同人のもうひとつの作品『小作人見舞い』(1597頃)も展示されていましたが、人物画では父ブリューゲルには遠くおよびません。(国立新美術館で開催中の「ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展」より)
ベラスケスもルーベンスも素晴らしい。が、なによりも、このヤン・ステーンがおもしろい。中央に座った若い娘は、流し目をおくって観者を誘っています。右手には酒壺を持ち、なんと左手は、酔った男のまたぐらに・・・。この男、左足を女の膝の上に乗せ、だらしなくにやけた顔を、後ろの修道女のほうに向けて、「そんなかたいことゆわんと」とか何とか言ってるのかな。奥様は、熟睡中。戸棚から勝手に物を取り出している子供もおれば、パイプ煙草を吸う子供もいるし、赤ん坊がスプーンを投げつけています。テーブルの上では犬がパイを食べ、豚が部屋にやってきてバラの花に向かってブーブー鳴き、猿が時計の振り子を引っ張っています。床の上は、樽からこぼれた酒や食べ物が散らかって、汚れ放題。それぞれに寓意を含んでいるのですが、この画家の風俗画のしっちゃかめっちゃかなところが、ただただおもしろく、時間を忘れます。ヤン・ステーン画『逆さまの世界』(1663)。私にとっても、17世紀オランダ絵画のなかでは、不可欠の画家の一人です。
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