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2008年9月27日 (土)

グローバル・クライシス

  アメリカの金融危機が、急激な展開をみせています。9月15日、リーマンブラザーズが破産申請し、メリルリンチがバンカメに買収されました。17日、世界最大の保険会社AIGが破綻し政府資金の投入で実質的に国有化されました。さらに25日、米貯蓄貸付組合(S&L)最大手ワシントン・ミューチュアルが破綻。証券、保険から遂に銀行にまで危機が拡大し、いよいよアメリカ市民の財布を直撃する様相を呈してきました。

 ネットでは、田中宇(さかい)氏が一貫してこの問題を追究しており、金融破綻からアメリカの単独覇権の崩壊を予想しています(田中宇の国際ニュース解説)。田中氏はいつも、世界の政治と経済について、豊富な海外情報をソースとしてシャープで独創的な分析をし、説得力ある論説を展開しています。ネット論壇必読のサイトです。アメリカ金融破綻についても是非、読まれることをお奨めします。
 金子勝&アンドリュー・デウィット両氏は、『世界』誌上(7‐10月号)に『グローバル・クライシス』と題した論文を連載し、アメリカ金融危機の構造を明らかにしています。最終回の10月号掲載の「世界が壊れそうだ」と副題をつけた論稿の要点を、メモしておきます。
 まず筆者は、サブプライム問題に端を発したアメリカの経済危機は、通常の景気循環による不況ではなく、「イラク戦争による軍事的財政的破綻、石油価格の高騰とバブル崩壊が重なった特殊なスタフグレーション、証券化とグローバル化が世界中を巻き込んだ同時不況の危険性」を指摘します。それは米国の覇権の危機であり、「19世紀末や1930年代に匹敵するグローバル・クライシスの時代」になる危険性を嗅ぎ取っています。
 不動産バブルの崩壊は、まだ続くとみています。現在売れ残っている新築住宅とともに、これから住宅市場に戻ってくる差し押さえされた中古住宅(「陰の供給」)が解消されないかぎり、過剰供給問題は解決しない。そのうえ更に、ホテル建築ブームのなかでの部屋占有率の低下、ショッピングセンター空室率の上昇など商業用不動産のバブル崩壊の危険性を指摘します。
 アメリカの不況は、地方銀行の経営危機の進行、貸出基準の厳格化による信用収縮の悪化、そして雇用へと波及しています。また実体経済の悪化は、自動車産業の苦境に現れています。ビッグスリーのシェアーは43%まで落ち込み、「米国自動車産業の衰退は、米国の覇権の衰退を象徴する」ことになると予測します。
 サブプライム危機はヨーロッパの金融機関にも波及し、ヨーロッパでの住宅バブルも崩壊し始め、「いまや米英諸国やEU諸国で同時不況」の様相です。一方、食料価格の上昇は、発展途上国の低所得者層を直撃し、「1930年代と同じく、今後ますます民族紛争と内戦・テロの時代に陥っていく危険性が高まっている」と警告します。
 基軸通貨としてのドルの危機、つまりアメリカの覇権の終わりについて。膨大な双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)を抱え、海外からの資金還流が途絶えると、「ドル暴落というカタストロフィが起きる危険」があります。しかも支えの主体は、中国・ロシア・中東諸国などアメリカの同盟国ではない国々。まさにアメリカの覇権は、危機的状況にあるといえるのです。最後に筆者は、アメリカに追従してきた日本は「ひとたまりもない」状況に追い込まれると警告してペンを置いています。
 秋の深まりとともに、日本にも不況の風が吹き始めています。いまは、日常生活では食品や燃料の値上げがより大きなテーマですが、これに不景気の重しが重なってきて、スタフグレーションの迷路にはまり込む危険性が大です。すでに格差のなかで、景気・不景気にかかわらず生活苦境に陥っている人びとが増加していることは、生活保護世帯の激増によって知ることができます。アメリカの金融危機によって明らかになったように、最早、新自由主義的な手法では、この危機を乗り切ることは不可能です。破綻した小泉・竹中路線への復帰はあり得ないし、いわんやその亜流の登場もありえません。近く予想される衆院選挙では、各党・各候補者のマニフェストをじっくり研究してから投票したいと思います。
 (『世界』連載の「グローバル・クライシス」は、『世界金融危機』(岩波ブックレット)として10月上旬刊行予定とのこと)

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