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2008年10月18日 (土)

新自由主義の終わりの始まり-労働政策をめぐって

Img_2 季節はずれの食あたりで家内が点滴をうけている間、病院の廊下で読み始めたのが、五十嵐仁著『労働再規制-反転の構図を読みとく』(ちくま新書 08.10刊)でした。私の必読ブログのひとつ「五十嵐仁の転成仁語」で刊行予告されていた新書で、内容も当ブログで追究されてきた、政府の労働政策の転換、規制緩和から再規制への「反転の構図」を読みとくものです。
 小泉・竹中「構造改革」によって格差と貧困が拡大し、自公政権や財界内部にも労働の規制緩和についての対立が明らかとなり、官僚からの逆襲によって、労働再規制へと反転しつつある様子が、赤裸々に描かれます。
 家内の症状が好転しないため、翌日再度、点滴をうけることになりました。その間2時間、病院の庭先の駐車場で読み続け、丁度点滴の終了とともに、読み終えました。家内も回復、ほっとして、ブログを書いています。

 もっとも面白くスリリングでさえあったのは、「第6章「官の逆襲」の開始」と「第7章 労働タスクフォースの暴走」の2章です。規制緩和派と再規制派の、表面は穏やかですが、内容は厳しい対立を孕むものです。時間を追って両者の主なやり取りをメモしておきます。
 1.06年11月30日・経済財政諮問会議・「労働ビッグバン」についての集中審議にて
(1)民間議員・八代尚宏教授「労働ビッグバンでどのような労働市場を目指すかについては、・・・働き方の多様性の実現。画一的な労働市場の規制に縛られるのではなく、労使自治に基づく多様な雇用契約を可能とし、労働者と企業にとって雇用機会が拡大することが大事」。
(2)臨時議員・柳澤伯夫厚労相「労使自治で労使が対等の交渉ができるかというと、実際の力関係からいってできない、という考え方で労働法制ができている。・・・最低限の労働者保護規定を設けることは労働法制の一番の基本」。厚労相の発言は、厚労省官僚の立場の代弁。
 2.07年5月21日公表・規制改革会議・労働タスクフォースの見解「脱格差と活力をもたらす労働市場へ-労働法制の抜本的見直しを」とそれへの政府からの批判
(1)労働タスクフォース見解「労働者の権利を強めれば、その労働者の保護が図られるという考え方は誤っている。不用意に最低賃金を引き上げることは、その賃金に見合う生産性を発揮できない労働者の失業をもたら(す)・・・過度に女性労働者の権利を強化すると、かえって最初から雇用を手控える結果となる・・・正規社員の解雇を厳しく規制することは、非正規雇用へのシフトを企業に誘発(する)・・・一定期間派遣労働を継続したら雇用の申し込みを使用者に義務付けることは、正規雇用を増やすどころか、派遣労働者の期限前の派遣取り止めを誘発し、派遣労働者の地位を危うくする・・・・・・」。労働規制緩和派の本音。
(2)5月29日参院厚労委員会での林芳正内閣府副大臣の答弁「最低賃金の改善、正規雇用労働者とパートタイマーとの差別の禁止、同一労働同一賃金の実現を始めとする労働政策の重要課題について、政府提出の関連法案との趣旨に照らしまして進めるべき政策の方向と異なる内容の文書が・・・労働タスクフォースの名をもって公表されたことは不適切なことであり、誠に遺憾」と厳しく批判。規制緩和の二つのエンジン、経済財政諮問会議と規制改革会議。その規制改革会議の下部組織の文書が、政府によって公然と批判されたのです。
(3)12月25日提出・規制改革会議第二次答申:政府の厳しい批判にあって、第一次答申では見送った「労働タスクフォース見解」をほぼそのまま踏襲し、さらに「労働契約に関する情報の非対称、つまり、使用者側の情報が労働者に十分に開示されていない点を改善することこそ、本質的な課題というべき」と付け加えています。
(4)12月28日厚労省の異例の反論「規制改革会議『第二次答申』に対する厚労省の考え方」:「基本的な考え方や今後の改革の方向性・手法・実効性において、当省の基本的な考え方と見解を異にする部分が少なくない・・・使用従属関係にある労働者と使用者との交渉力は不均衡であり、また労働者は使用者から支払われる賃金によって生計を立てていることから、労働関係の問題を契約自由の原則にゆだねれば、劣悪な労働条件や頻繁な失業が発生し、労働者の健康や生活の安定を確保することが困難になることは歴史的事実である・・・契約内容を当事者たる労働者と使用者の「自由な意思」のみに委ねることは適切ではなく、一定の規制を行うこと自体は労働市場の基本的性格から必要不可欠である」。この異例とも言える厚労省の批判に対して、規制改革会議は08年2月22日、「労働者の保護に必要な法的な手当を行うべきことは当然である」と釈明しました。
 五十嵐さんによって整理された、労働規制緩和派と再規制派との攻防戦は、上記のように激しく執拗なものです。その結果、規制緩和派が徐々に後退し、再規制派が失地を回復していきます。五十嵐さんは、こうした反転の構図を、社会・政治・マスメディアの動向から読み解いていきます。ここにも、新自由主義終焉の証拠が明確に現れます。
 一読をお勧めしたい新書です。

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