初冬の三陸海岸
火曜日からの長い北東北出張の最終日は、三陸海岸の大船渡でした。漁港近くの民宿に泊まり朝、海岸を散策しました。この辺りは、陸中海岸国立公園のなかにあり、碁石海岸として名の知られたところ。天気は快晴、昨晩の凍るような寒さは消え、頬を撫でる風は未だ、秋のものでした。
碁石海岸の名称は、浜に転がるこの石ころたちに起因します。碁石のような扁平な石ころが、無数に転がっています。この上を歩いてみると、足首が碁石たちに捕らえられ、まっすぐに進むことができません。相当の深さまで、この小石が埋まっている感じです。水際には波が小さく打ち寄せています。石たちは、海の水に黒く輝き、一層美しさを増します。
小さな湾内では、女性漁師が箱眼鏡から海底を覗き込んでいました。11月6日から始まったアワビ漁です。地元新聞は、価格が大幅に下がったことを伝えています。消費者の口に入る時には、はたして、値下げとなるのでしょうか。
碁石浜から車で数分のところに、乱曝谷(らんぼうや)と称する断崖絶壁の景勝地がありました。陸地と波に浸食された島の間に水路ができ、波の穏やかな今朝は、静かな内海になっていました。
乱曝谷の先に、波をかぶった岩礁があり、ウミネコの群れが、羽を休ませていました。カメラのズームを60倍にしてウミネコの群れを探索していると、様子の異なる海鳥2羽が、眼に留まりました。
近くで開店準備をしていた土産物屋さんで、この海鳥の名を聞くと、ウミウだということでした。実は、ウミネコの名前も、ここで確認したのでした。カモメとウミネコの見分け方も、ここで聞きました。ウミウは、この海岸に住み着いているとのこと。
取引先との約束に間に合うよう早々に、碁石海岸をあとにしました。2年に一度程度の割で、ここ三陸海岸に来る機会があるのですが、リアス式海岸の美しさにすっかり惚れ込んでしまいました。
大船渡での仕事を終えて盛岡に帰ってくると、そこは、三陸海岸とは別世界の雪景色でした。昨晩来の大雪で高速道路は閉鎖されていました。内陸と海岸のこのコントラストは、冬の岩手の大きな特徴です。海の温暖な景色は、ほんの3時間前に見たところです。
今回の出張の間、ポール・ニザン著『アデン、アラビア』(河出書房新社 池澤夏樹編「世界文学全集Ⅰ-10 08.10刊)を読みました。「僕は20歳だつた。それが人生でもっとも美しいときだなんて誰にも言わせない」という冒頭文で知られたフランスの、両大戦間に書かれた青春文学。帯には、次のように書かれています。「老いて堕落したヨーロッパにノンを突きつけ、灼熱の地アデンへ旅立った20歳。憤怒と叛逆に彩られた若者の永遠のバイブル」。
新幹線車中で読みながら、私は、著者が読者である私の接近を、頑強に拒み続ける感覚を、味わいました。著者の語ることを理解しょうとする私の努力を、20歳のニザムは、嘲笑うように拒みます。文中ニザムは「要するに、誰もが退屈しているってこと」と書きますが、そう、読者の私もすっかり退屈しながら、『アデン、アラビア』を辛抱強く、読み通しました。
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