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事件や犯罪はおろか出来事自体が、ほとんど起こりません。正確にいうと、事件や出来事が、この小説ではあまり意味を持っていない、ということです。3部構成の「第1部 窓」では、ある一家とその客人たちが、小島の別荘で、休暇を過ごしています。家族は、哲学者とその妻。この夫妻には8人の子供たちがいます。客人は、老いた詩人、初老の科学者、若い学者、女性画家、そして恋する若い男女の6人。これら16人の心の揺れ・動く様子が、克明かつ繊細に描かれ、それぞれの関係性が、炙(あぶ)り出しのようにページを繰っていくにつれ、浮き上がってきます。
ヴァージニア・ウルフ著『灯台へ』(河出書房新社 池澤夏樹編「世界文学全集Ⅱ-01」)は、このような感じの小説です。
先日、荻窪の職場近くの中華料理店が、店を閉じました。ここ10年近く、月に2,3度通っていた、ワンタン麺の美味しいラーメン屋だったのですが、暖簾のはずされた入り口には、「12月31日をもって閉店しました。40年来のご愛顧に感謝します」と、店主の律儀な性格そのままの文字で書かれた告紙が、貼ってありました。50代の主人夫婦とその息子らしい男性の3人で、店を切り盛りしていたのですが。
シングル・マザーのアンジーは、職業紹介会社を理不尽に解雇され、ルームメイトとともに自ら職業紹介所を立ち上げます。ポーランドはじめ外国からの移民労働者を、工事現場や工場に日雇い派遣するのです。
アンジーには11歳の一人息子がおり、両親にあずけています。また、多額のローンの返済がのしかかってきています。何とかこの苦境を乗り切らなければなりません。少しでも多く儲けたい。そのためにアンジーは・・・・・。
ケン・ローチ監督『この自由な世界で』は、現代イギリスの最底辺に位置づけられた移民労働者と、彼らを搾取して不当な利益をあげる経営者たちの姿を、赤裸々に描きだします。前作『麦の穂をゆらす風』同様に、心臓を鷲つかみにされるような、つらい感動を覚えました。
トヨタ自動車の赤字転落やウェッジ・ウッド倒産のニュースが、世界を駆け巡ります。突然の解雇通知で職と住を失った日本各地の派遣労働者、家を失いテント生活を余儀なくされたアメリカのサブプライムローン破綻者、そして失業によって故郷へ帰る中国農民工など、世界中の労働者の苦難の姿が、日々伝えられます。アメリカ発の世界金融危機が、大不況を予感させる経済危機へと深化し、拡大してきました。そして、アメリカ国民は既に、オバマ次期大統領の”CHANGE“に賭けることを決意し、1月20日の新大統領誕生を、大きな期待感をもって待っています。しかし、不遜にして愚昧な、決断のできない首相が居座り続ける日本では、閣僚が「定額給付金」をもらうかどうかの脳天気で国民を愚弄した議論を、ヘラヘラとやっている有様で、派遣村の運動に希望を見出しつつも、政治への閉塞感が、耐えられないほどに漂っています。大不況を食い止められるか否か、政治は断崖絶壁のキワに立たされているのです。
先に読んだガルブレイス著『大暴落1926』(日経BPクラシックス)に引き続き、F.L.アレン著『オンリー・イエスタデイ』(ちくま文庫 93刊)を読みました。ネチズンカレッジの加藤哲郎さん推薦の大不況関連書籍のひとつ。1918年の第1次世界大戦終結の日から1929年の株価大暴落にいたる11年間の、アメリカ社会の変容が、ジャーナリスティックな筆致で克明に描かれます。
スイスの小さな村に住む80歳のマルタは、夫を亡くし半年も喪に服したまま、いきる気力を失っています。そんなマルタのことを、息子や村びとが、大層心配しています。あるとき、友だちの一人が励ましの気持ちを込めて、マルタの若い頃の夢であった、ブティックの開店をすすめます。なんと、スイスの伝統的な刺繍をほどこしたランジェリーを作って売ろうというのです。牧師の息子と村の政治リーダーは、下劣で利己的だといって、排斥しょうとしますが・・・・・。
スイスの若い女性監督ベティナ・オベルリ作品『マルタのやさしい刺繍』(スイス・2006年)は、年老いた人々が紡ぎ織る、楽しく心あたたまるおとぎ話です。