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2009年5月15日 (金)

ル・クレジオ著『黄金探索者』

Photo   那覇港を出航し八重山諸島の石垣島へ向かう途中、広大な大平洋のなかに、大小さまざまな島々が、断続的に現われる様子を目で追っていました。私にとっては未知の、島の自然と人びとの暮らしに想像をめぐらせ、何か不思議な感慨に耽っていました。この本を読みながら、40年以上も昔のことを、思い出しました。
 トゥルニエ著『フライデーあるいは太平洋の冥界』とル・クレジオ著『黄金探索者』(河出書房新社 池澤夏樹編「世界文学全集Ⅱ-09 09.04刊)は、前者が南太平洋の無人島スペランザ島の、後者がインド洋のモーリシャス島とロドリゲス島の、孤独な主人公の物語です。

 ル・クレジオ著『黄金探索者』は、著者の祖父レオンの体験をもとに、語り手の「ぼく」が、モーリシャス島での少年期から、ロドリゲス島での黄金探索の日々と第一次世界大戦でのベルギー戦線での兵役を経て、再び島に戻ってくるまでのことを、物語ったものです。訳者の解説によれば、著者ル・クレジオの先祖は、18世紀末にモーリシャス島に移住し、19世紀の一家の繁栄の後、20世紀のはじめ破産と分裂により住み慣れた屋敷を去っています。また、父方の祖父レオンは、モーリシャスで裁判官を勤めた後、海賊が隠したという財宝の探索に30年をかけ、しかし結局何も見つかりませんでした。「私はどこから来たのか」を問うた著者ル・クレジオは、祖父レオンの体験に潜り込み、『黄金探索者』を再体験したのです。
 モーリシャス島とロドリゲス島は、アフリカ大陸南端近くの東側にあるマダガスカル島の、更に東側にある小さな島です。1505年にポルトガル人が来て以来、その後オランダ、ドイツ、フランス、イギリスが次々と植民地としてきました。
 アフリカ大陸の近くインド洋に浮かぶ島を舞台にした小説を読むのは、初めてのことです。そこには、フランス人やイギリス人の植民者が登場し、インド人やアフリカ人の解放奴隷が出てきます。ヨーロッパの植民者には、プランテーション経営に成功をおさめて大金持ちになった人もおれば、逆に事業に失敗し、ただただ果たせぬ夢を追い求め続ける人もいます。「ぼく」の父は後者の典型で、起死回生の最後の賭けだった発電所建設を、ハリケーンの襲来によって蹴散らかされ、膨大な負債を抱えて破産します。しかし父は、夢を追うことだけは、止めません。昔、海賊たちが隠していった財宝を探し出し、手に入れることです。子どもたちには、夜空をながめ星や星座について、教え語り続けます。
 「ぼく」の友だちのドゥニは、家の下僕であったクックの孫です。クックは、マダガスカル島から渡ってきた解放奴隷です。孫のドゥニに、ご主人の息子であるぼくを守るように、命じています。ドゥニは、島の植物や昆虫や動物のことについて、だれよりも詳しく知っていて、ぼくに教えてくれます。また、島の山や森や海に連れていき、数々の冒険を一緒に楽しみます。しかし、禁じられていたカヌーの旅-ぼくには忘れられない初めての船旅-から帰った後、再び遊ぶことは禁じられました。少年期の懐かしく苦い思い出です。
 プランテーション労働者の反乱のシーンがあります。冷酷で意地悪い白人の現場監督との衝突で、落馬したひとりの白人の男が、かまどのなかに放り投げられ、焼殺されました。ぼくは、このことは誰にもしゃっべてはいけないと、自分にいい聞かせます。
 青年となり、成功組の伯父のオフィスでつまらない事務仕事をしますが、父の夢を実現するために、引き継いだ図面や地図をもつて、海賊の財宝が隠されているロドリゲス島へ渡ります。海岸近くにテントを張り、黄金探索の日々が始りました。ある日、茂みを走る裸足のウーマという女性と出会い、やがて恋をします。このウーマの人生も、インド洋の小さな島の人びとを理解するうえで、不可欠です。その父は、ロドリゲス島の高地生まれの山の民の解放奴隷。英領インドの船でカルカッタへいき、インド人の母親と知り合い結婚。しかし、航海中に父は死に、貧しい母は、ウーマを修道院に預けました。ウーマは、可愛がってくれた院長とともにフランスにいき、そこで教育を受けますが、やがて病気となって島へと帰ってきます。ウーマは、美しいフランス語を話しました。長い腕で両足を抱え、膝にあごを載せて遠くをみている褐色の少女ウーマは、野生的で美しく、魅力的です。しかし、黄金探索に疲れたぼくは、志願兵となつて第1次世界大戦のフランスへと赴きました。

 ヨーロッパ諸国の植民地主義は世界中に、ドゥニやウーマのような子どもたちを生み出してきたと、あらためて認識します。同時にそれは、ヨーロッパの人びとを絶えず、境界域へと押し出し、そこで異質で多様な人と文化との出会いを実現させ、自らの文化の豊富化につなげました。それは、植民地の人びとの貧困や文化喪失と裏腹の関係で、実現したものでした。池澤夏樹さんの選考によるこの世界文学全集には、こうしたヨーロッパの植民地主義によって境界を越えた人びとが、多くでてきます。デュラスのインドシナやディネセンのアフリカがそうです。バルガス・リョサのポリネシアも、類似します。そして、今回のル・クレジオが新たに加わりました。

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