竹簡とUSBメモリー
陳舜臣著『中国の歴史』と『小説十八誌略』の前漢時代までの記述は、主に司馬遷著『史記』等の歴史書に依拠しています。司馬遷の時代には未だ、紙は発明されておらず、『史記』は竹を削って作った竹簡に書かれました。陳舜臣さんを読んでいて、中国古代史の面白さもさることながら、この竹簡・木簡のことに強く引かれました。文庫本1冊が牛車1台分に相当した、との記述に眼が留まりました。(写真は、『孫子兵法』の訳本竹簡)
1本の竹片を「簡(札)」といい、これを紐でまとめて丸めたものを「一巻の書」といいました。漢代の竹簡の大きさは、長さ23cm、幅1cm、厚さ0.2cmだったそうです。そして1片の簡に20~30字ほど書かれました。『小説十八誌略』には、『史記』は140巻526,500字からなると紹介されていますので、20字/簡とすれば、『史記』は26,325本の簡を要したことになります。1巻あたり平均188簡です。(実際の『史記』の竹簡ボリュームについては、不勉強のため今は知りません。)
竹簡で編まれた『史記』のボリュームを、以上のことを前提に、小異は気にせず極めて大雑把に推定してみます。
まず1巻の大きさから。幅1cmの簡を188枚横に並べます。すると1巻は、23cm×188cm×0.2cmとなります。この1巻分の帯状で平面的な簡を140枚重ねると、『史記』140巻が出来上がります。出来上がった直方体は、長さ23cm×幅188cm×厚さ28cmとなります。週刊誌の大きさがだいたい26cm×18cm×0.5cmなので、具体的なイメージとしては、週刊誌を10冊横に並べ(幅188cm/18cm/冊≒10冊)、それを60段(冊)重ねたボリュームです(厚さ28cm/0.5cm/段≒60段)。ほぼ牛車1台分であることがわかります。2100年前の記録媒体である竹簡のイメージです。
では、紙を記録媒体としたときは、どうなるか。文庫本で計算してみます。
『中国の歴史1』(講談社文庫)の場合、1冊が18行×43字×570頁=441,180字ですので、『史記』の526,500字は、文庫本で1.2冊程度のボリュームとなります。牛車1台に積み込まれていた竹簡に書かれた『史記』は、文庫本では1冊強のボリュームに圧縮されました。
そしてパソコンの普及した現在、記録媒体は、飛躍的な進化を遂げています。その方向は、小型軽量化、迅速化、巨大容量化、低価格化です。たとえば、職場でも日常的に使われているUSBメモリーは、小銭入れに放り込めるほどに小さく、容量は2GB(ギガバイト)と巨大で、価格は1,000円を割っています。では、このUSBメモリーに『史記』をファイルすれば、どうなるか。
漢字と仮名は、1文字で2B(バイト)要します。すると『史記』の526,500字は、526,500字×2B/字=1,053,000B=1,053KB=1MB=1/1000GBの容量となります。1GBだと1,000冊収納できます。つまり、価格.COMで買った780円のUSBメモリー(2GB)に『史記』をファイルすると2,000冊も収納できます。背広のポケットの小銭入れに、2,000冊におよぶ中国の史書が、収まっているのです。
人間の道具の歴史、とりわけ情報革命といわれる現代の飛躍的な発展は、驚異的であり目まいを感じるほどです。この進歩には、そこそこついて行こうと考えながらも、そのスピートに圧倒され、気後れさえ感じます。しかし、竹簡から紙、そしてUSBメモリーへと記録媒体の進歩をたどってきて、歴史を貫通した人間の「記録」への並々ならぬ執念のようなものを、思い知りました。
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竹簡
投稿: 竹簡 | 2019年12月21日 (土) 07時53分
吉見衣世
投稿: 吉見早央 | 2019年12月21日 (土) 07時53分