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2009年8月16日 (日)

お茶と道教

_1_2  先週の日曜日、信州蓼科に古い友人3人が集まり、40年ぶりの勉強会を開きました。幹事から与えられた課題は、90分間自由に語ること、でした。東南アジア農業を研究してきた学究の友は、スライド写真を使いながら、メコン川文明を滔々と語りました。小学校校長を務めあげたもう一人の友人は、言語学の成果を踏まえて、日本語の不思議に迫り、初老の頭脳をいささか刺激してくれました。そして私は、6種類の中国茶を飲みつつ、お茶の話をしました。
 大雨の降り続く蓼科の深い森のなかで、しばし日常と世間から離れ、老いの入口に立った男三人が、アンチ・エイジングの抵抗をはじめたのです。

 私の「お茶の話」の中心は、栄西著『喫茶養生記』を現代医学で読み解くことでした。このレポートを準備する過程でネット上に、江静呉玲(浙江工商大学)稿「『喫茶養生記』に見られる道教文化の影響に関する試論」という、大変おもしろい論文を見つけました。茶と仏教、とりわけ禅宗との関係の深さは、臨済宗をもたらした栄西が、茶の種子と喫茶文化をわが国に伝えた史実だけでも、よくわかります。その後、茶と禅が表裏一体となって茶道を発展させていったことは、周知のことです。では、道教と茶との関係は、如何なるものなのか。上記の江静論文は、この疑問にわかりよく答えてくれます。
 まず道教について筆者は、世界の三大宗教が来世での幸福を説いているのに対して、「道教は生きることこそが人の幸せである」とし「現世こそが楽土である」と考えたとします。そして「可能な限り生命を維持して延年益寿を実現し、その後は仙人となって天に上る(羽化登仙)。これが道門において人々が目指す最終目的」なのです。だから「
養生思想は道教思想の主要な部位を占める」ことになります。まさに『喫茶養生記』は、こうした道教の根本思想の上に書かれた、というわけです。
 
『喫茶養生記』には、茶の効能が多く書かれていますが、「茶を久しく服すれば羽翼生ず」というところが、いまひとつ理解しずらいところでしたが、この「羽化登仙」という言葉をきくと納得がいきます。
 陰陽五行説は、道教の重要な思想ということですが、『喫茶養生記』にもこれが色濃く反映しています。「心臓は是れ五臓の君子なり。茶は是れ苦味の上首なり。苦味は是れ諸味の上首なり。是れによって心臓、この味を愛す」。五臓は、肝・肺・心・脾・腎をさします。これに五味の「酸・辛・苦・甘・鹹」、五行の「木・金・火・土・水」、五方の「東・西・南・中・北」、五色の「青・白・赤・黄・黒」などが相対させられます。江静論文には、このようなことなどが書かれています。『喫茶養生記』を読み解き、日本の茶の文化をより深く理解していくためには、是非読んでおきたい論文です。

 蓼科での勉強会を終えて帰宅し、岩波の「世界」を開けたところ、「特別展 知られざるタオの世界 道教の美術 道教の神々と星の信仰」(写真はチラシ部分)という美術展の広告が目に入りました。日本橋の三井記念美術館で開催されていました。盆休みの初日早速、いってみました。一点だけ書き留めておきます。道教の天文図を紹介するコーナーのひとつに、飛鳥のキトラ古墳壁画四神図の写真が展示されていました。陰陽五行思想にもどいて、古墳石室の四方を、霊獣が守っている図です。東西南北の壁には青龍(せいりゅう)・白虎(びゃっこ)・朱雀(すざく)・玄武(げんぶ)の四神(しじん)が描かれています。天井には黄道が描かれた天文図があります。ここで、五方の「東・西・南・中・北」と五色の「青・白・赤・黄・黒」を思い出しました。さらに、中国茶が6つのカテゴリーに分類され、その名称が、「青茶・白茶・紅茶・黄茶・黒茶」および緑茶であることが、ふっと頭をかすめました。中国茶の名称は主に、茶葉の色による、と説明されています。水色も関係があるかもしれません。しかし、茶の文化が、道教つまり陰陽五行思想と深くつながっているとすれば、「五色」プラス緑と考えたほうが、相応しい気がしてきます。はたしてどうなのか、いまのところ、そうした説明はどこにもありません。

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