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2009年10月31日 (土)

映画『湖のほとりで』

Photo 森にかこまれた湖のほとりで、美しい少女の死体が、発見されます。この地に赴任したばかりの刑事サンツィオは、死体に争った形跡がないことから、顔見知りの犯行とみて、被害者周辺の村人に、捜査の手を伸ばしていきます。この犯人追跡の過程で、個々の家族と人々が、密やかにもっている悲しみが、徐々にあぶり出されます。
 イタリア映画『湖のほとりで』は、現代に生きる私たちが避けがたくもっている悲しみを、静かに描きだしました。

Photo_2  舞台は、北イタリアの小さな村と森のなかの湖、と設定されています。しかし、スクリーンに映しだされた村の家並みは、日本の都市近郊の新しい住宅街を思わせる景観です。今風の戸建て住宅は、此方のそれとほとんど変わりません。そしてこの映画が静かに追い求めた、現代の家族と個人が秘かに胸のなかに抱え込み、逃れることの出来ない悲しみも、此方のそれと変わりません。
 学校へ行けない幼い少女、ウサギを可愛がる知恵遅れの青年といがみ合い続ける足の不自由な年老いた父親、偏愛と無視にさらされる異父姉妹とその父親、誤飲事故で障害をもった3歳児を亡くした元夫婦、そして、刑事の妻は若年性認知症に冒されています。映画では、刑事サンツィオが、こうした村人たちの抱える悲しみの間を縫うように、犯人を追跡していきます。サスペンス調ではあるが大変抑制的で、だから人々の秘められた悲しみを、観客に、じっくりと静かに見つめさせます。
 ゆっくりと流れていくエンディング・クレジットを見つめながら、眼にうっすらと涙が浮きでてきました。『ニュー・シネマ・パラダイス』『ライフ・イズ・ビューティフル』に続くイタリア映画の傑作、とのチラシの広告文に、全面的に賛成します。 

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