里山再生と竹林整備の講演会を聴く
先週の竹林整備の体験学習会に引き続き、今週は、「里山再生のための竹林整備と竹材の有効活用」と題した講演会に参加しました。NPO法人上州高山・竹倶楽部と群馬県環境森林部の共催。講師は、福岡県の元森林技術研究員で、現在、竹林利活用アドバイザーとして活躍中の野中重之さんでした。
1.放置すれば厄介者、利活用すれば宝の山
講演の冒頭、野中さんは、パワーポイントを使ってスクリーンに、今日の講演のテーマを大書されました。「竹林は、放置すれば厄介者。利活用すれば宝の山」。私の問題意識も、私の住む里山の放置された竹林を、なんとかしなければならない、というもの。野中さんは、忠告されます。「竹は、伐採すればするほど生育する」。「竹の生理・生態を理解して取り掛からないと、失敗する」。過去10年近く区の仲間とともに、集落周辺の竹林整備に取り掛かってきたのですが、なるほど野中さんの指摘どおり、伐採した竹林ほど、それ以前にも増して竹が繁茂しており、がっかりしたものです。
2.竹の特性
(1)地下茎の伸長
竹の生理・生態の最大の特性は、地下茎にある、と指摘されました。その地下茎の伸長量は、タケノコ専用林で約2m/年、放置林外周部では7,8m/年の事例もあるということです。放置すれば、地下茎が伸長し、竹がはびこるというわけです。その結果、竹林の地下茎の総延長は、10aあたり5~6,000mにもなるということです。しかも、地下茎には、3~5㎝毎に芽があり、その芽が伸びてタケノコとなり、やがて竹となるのです。5㎝毎に芽があるとすれば1mで20本となり、5,000mでは10万本となります。つまり、10aあたり10万本のタケノコ=竹が生える可能性がある、ということです。
(2)スロー・スピード成長
成長速度は、タケノコのときは超スロー(前年8月~翌年3月)、竹に転換して超スピード(平均40㎝/日、最大120㎝/日の記録も)。2年目以降は、伸長も肥大も0となります。
(3)竹の寿命
1本の竹の寿命は、モウソウチク13-15年、マダケ5-7年、笹2-5年ですが、竹林全体の寿命は無限だ、と指摘されました。例えば、マダケは6,70年に1度開花後枯死しますが、地下茎は残り、竹林は再生されるというわけです。竹林はしたたかに、再生され続けます。
3.竹林放置で懸念されること
野中さんは、竹林放置によって懸念されることを、4点指摘されました。
(1)農林業への支障:放置竹林の耕作地・森林等への侵食、イノシシ・シカ等野獣の繁殖などによる農作物被害。
(2)公益的機能の低下:竹の水吸収量大きく、降水の地下浸透を妨害する。
(3)動植物多様性の低下:森林における竹の競争力は大きく、他の植物を凌駕して、竹単層となります。
(4)二酸化炭素吸収能力の低下:竹林、とくに放置密生竹林の竹の葉は、非常に少なく、光合成能力は、広葉樹と比較して極めて低い。このため、竹林の二酸化炭素吸収能力は低いものとなっています。
4.放置林の整備と利活用
では、竹林の整備と利活用は、どうすればいいのか。今日の本題へと講演は進みました。日本の竹面積の60%をしめるマダケ林について、説明されました。
(1)マダケ林の整備ポイント
①除去する竹・・・枯れ竹・老齢竹(表皮が白っぽい:4年生)・病害竹など
②除去後の親竹本数・・・径8㎝で1.2×1.2m、径6㎝で1.0×1.0m、径3㎝で0.8×0.8m
③時期・・・6月にタケノコ取り、7月には新竹を仕立て、秋に老齢竹を伐採する。竹細工用竹材は、10-12月伐採が適期。
④他樹種への林種転換の場合:竹皆伐→タケノコ全量採取を繰り返せば、竹林は全滅する。地下茎は、良質の有機肥料となる。
(2)整備後の竹林利活用
①穂先タケノコの生産
②観光タケノコ園や竹林オーナー制度の導入で、都市住民のパワー活用・共同化。
③竹の粉砕化・・・竹堆肥、カブトムシ養成、竹ペレット(飼・肥料、燃料)
④竹炭・・・環境資材としての活用(脱臭・吸着・吸湿・浄化等)
⑤竹細工の復興
5.最後に
整備後の竹林の利活用については、福岡での指導実践に基づき、詳細な報告があったのですが、上記項目を書くに止めておきます。講演の最後に野中さんは、放置林の整備にあたっては、竹林所有者の意識改革と協力のもとに、行政・NPO・市民の協働が不可欠だと指摘されました。
この講演会には、群馬県内各地から70余名の参加者がありました。私たちは8名の参加で、高崎・観音山丘陵の一角にある里山の再生に向けて、徐々に、エンジンが掛かり始めた感じがします。いずれ、京都の嵯峨野や大原野の竹林に負けない、美しい景観をもつた竹林が生まれることを、夢に見つつ汗を流そうかなと、思います。
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