『うつほ物語』が『源氏物語』と『今昔物語』を準備した
『うつほ物語』(952-965頃)は、遣唐使清原俊蔭が、波斯国の天女から授かった琴と技法を、四代に渡って伝授していく伝記風の物語と、絶世の美女への求婚譚や皇位継承をめぐる藤原氏・源氏両家の対立を描いた世俗物語からなる、わが国最初の長編小説です。
私はこの小説を、細部の表現の美しさや平安時代についての新鮮な知識に刺激されながら、波乱万丈の展開に心躍らせ、読みつづけました(宮城秀之編『うつほ物語』角川ソフィア文庫・主な巻の抜粋現代語訳)。加藤周一は、日本文学史上、『源氏物語』と『今昔物語』の源にあった大きな記念碑のひとつとして、この『うつほ物語』を位置づけています。