年の初めに、太古の日本へ
灯りをおとした部屋に入っていくと、ガラスケースのなかでスポットライトを浴びた仮面土偶が、両手をひろげ、いかにもデンと構えて、出迎えてくれました。この大きな足、おへそと波紋、逆三角形の顔、そして体一面に施された渦巻き文。縄文世界への、異形の出で立ちでの出迎えです。大きいお腹は、妊産婦であることを教えてくれます(茅野市名中ッ原遺跡出土。国立博物館『国宝土偶展』~2/21)。
週末の朝一番の展示室内は、いまだ鑑賞する人少なく、ひとり静かに、縄文世界にひたることができました。しかし、この十字形土偶が、部屋の沈黙を破ります。やはり逆三角形の顔ですが、ややゆがんだ口から、悲しげな叫び声が聞こえてきそうです(青森市三内丸山遺跡出土)。ムンクの『叫び』を思い出しました。乳房、へそ、正中線が、はっきりと刻印されています。頸部に割れ目がみえますが、これは人為的に割られて、別々に捨てられたと、図録説明にありました。
ハート形の顔と大胆にデフォルメされた身体。飛び出した目と大きな鼻で、きょとんと私を見つめます。小さな乳房の下には、正中線がやや深く、掘り込まれています。この正中線は、なにを意味するのでしょうか。デザインとしての稚拙さを、全く感じさせません(群馬県東吾妻町郷原出土)。
こんなに土偶に出会ったら、猫好きにはたまりません。しかし、身体は、人のようにも見えます。左手の三本指や吊り上がった目などは、他の土偶にも見られました。下半身と右腕が欠落しています。
数年前、青森へ出張した折、太宰治の生家の前を通りかかったことがありました。その時、土産物屋で買ったのが、この遮光器土偶のレプリカでした。しかし、はじめて本物に出会い、その堂々とした姿に、圧倒されました。ほとんど目だらけの顔、体中に施された文様、欠落した左脚、どれもこれも目を奪われます(つがる市亀ヶ岡遺跡出土)。
今回の『国宝土偶展』を観るきっかけになったは、この縄文のヴィーナスでした。昨夏、茅野駅でこの土偶のレプリカをみて魅せられ、帰宅後ネットで調べると、秋、ロンドンの大英博物館に出展される、とありました。今回の上野での『土偶展』は、その帰国記念となっています。そして昨日、本物との対面となりました。ほっくらとした身体と柔らかな曲線は、臨月の女性を思わせます。後姿は、出尻デッチリが、かわいい( 茅野市棚畑遺跡出土)。
合掌土偶。神に祈っているのでしょうか。顔は他との共通を強く感じますが、身体は、人の身体にそっくりです。他の土偶が、デフォルメされたり部分強調されたりして、象徴性が高いのに対して、この土偶の身体のリアルさは、際立っています。乳房、正中線、女性器が、明確に表現されています(八戸市風張1遺跡出土)。
私が初めて見た縄文土器は、新潟県の十日町市博物館で見た火焔土器でした。炎が燃えあがったようにみえる縄文土器は、一面粗削りに見えながら精巧な形象を確固として保ち、圧倒的なパワーと存在感を感じさせました。単純と洗練を特徴とする、弥生時代以降の土器を日本的と呼ぶならば、縄文土器はおよそ日本的でない特徴をしています。しかし、間違いなくここ日本列島で生きつづけた土器ですから、原日本的というのが、相応しいのかもしれません。私は強く、縄文土器に魅かれました。
そして今回はじめて、土偶コレクションを見ることができました。国宝三点を含む、これ以上は望めないという、画期的な土偶展でした。そして、火焔土器に出会ったときの興奮を、いま再び、土偶たちに感じています。
ところで、この土偶とは、何なのでしょうか?
コメント