ジャン・ピエール・メルヴィル監督『海の沈黙』
この映画は、ふたつの作品を、映像化しています。作家ヴェルコールの『海の沈黙』という小説(フィクション)と、フランスの作家たちがナチスの占領下、抵抗文学の拠点とした「深夜叢書」の第一冊として、この小説を刊行したという事実(ノンフィクション)の、ふたつです。映画の冒頭、路上で秘かに、皮製の旅行鞄がひとりの男から他の男に、手渡されます。スパイ映画の冒頭シーンの趣きです。鞄の中には、“LE SILENCE DE LA MER”と題された本が、隠されていました。そして次のテロップが流れます。
「残忍なナチス・ドイツの犯した犯罪が、人々の記憶からぬぐい去られない限り、この映画は仏独関係の改善に寄与しない」。