税のこと
昨日、所得税の確定申告の手続きのため、初めて税務署へいきました。小さな体育館のような会場には、多くの人々がつめかけ、税務署の担当者の指導を得ながら、パソコンに向かっていました。30分ほど並んだ後、事務的に必要事項を入力したら簡単に、還付金額が算出されました。少なくない金額が還されることになり、大層得したような気分になりました。
夜ベッドにはいり、昨秋来の習慣としている一海知義著『漢詩一日一首』(平凡社ライブラリー 07刊)を読んでいて、あっと思いました。生まれて初めて税務署へいったその夜に、中国宋の時代の税金の漢詩に出会ったのです。読書には時々、こうした偶然があり、思わずにっとほくそ笑みます。
南宋の詩人范成大(1126-93)の「四時田園雑興」第十首。(原文・読み下し・現代語訳すべて一海先生のものより)
黄紙蠲租白紙催 黄紙もて租を蠲ユルし 白紙もて催ウナガす
皁衣旁午下郷来 皁衣ソウイ 旁午ボウゴ 郷に下クダりて来たる
長官頭脳冬烘甚 長官の頭脳は 冬烘トウコウせること甚だし
乞汝青銭買酒廻 汝に青銭を乞い 酒を買いて廻カエらん
「黄紙もて租ネングを蠲ユルせしに白紙もて催ウナガす」。お上の減税政策はあてにならない。
黒い服を着た役人が、旁午ヒルサガリ、派遣されて村へやって来た。
「本官はのう、どうも頭がすっきりせんのじゃ。一杯やれば、なおるんじゃがな。どうじゃ、酒代サカテをはずまんか。そうすりゃ大目にみて退散しょう」。
黄紙は年貢減免証書、白紙は督促状。
作者の范成大は、南宋の政治家で詩人。この一首の前後に、冬の農村における農民の暮らしぶりをうたった数首が取りあげられていますが、いずれも、貧しい生活の中でも楽天的に生きようとする農民を描いています。一海先生の現代語訳も、飄逸としていておもしろく、退屈しない。
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