シェフから「地域づくり」の話を聞く
群馬県立近代美術館の一角にある「森のレストランころむす」において、『食からはじまる地域づくり』と題した講演会がありました。近所の専業農家で、14ヘクタールの稲作経営をしているYさんから誘われ、家内とともに参加しました。彼は、このレストランに古代米を納品しているとのこと。(写真の美術館一階にレストランがあります)
講師は、山形県庄内からやってきたシェフの奥田政行さん。1969年生まれの奥田さんは、故郷庄内の食材にこだわったイタリア料理店「アル・ケッチァーノ」のオーナー・シェフで、2006年には、 スローフード協会イタリア本部から、世界の料理人1000人(日本からは11人)に選出されています。奥田さんは、普段の厨房での格好のまま登場し、気さくで人懐っこい笑顔をたやさずに、食材についてのアレコレを話されました。
奥田さんの「アル・ケッチァーノ」は、地産地消のレストランです。地元庄内でとれた食材にこだわるのは勿論のこと、食材を生産していただく生産者との絆を大切にしている、と力説されます。生産者との絆の最大のポイントは、栽培依頼したものの全量買い上げ。だから、何を生産するかは、農学部の先生と相談し、農業試験場で適地を調べ、生産者とともに、慎重に調査・検討して決めています。奥田さんはいいます。「美味しく力のある農産物は、原産地に近い土壌・気象・地形条件の土地でつくること」。だから奥田さんは、農産物の歴史についても、よく勉強されています。
奥田さんの地産地消の最大のポイントは、庄内の伝統的な食材を発掘していることです。藤沢カブ、平田の赤ネギ、だだちゃ豆、民田なす、外内島きゅうりなど在来種の野菜が、次々とでてきます。そして、鳥海山に降った雨が伏流し、日本海の海底湧水で育った岩ガキ。これらはみんな、地名と深く結びついています。
では奥田シェフの料理のポイントは。ソースをなるべく使わない。生命力あふれる食材。選ばれた水と塩。生命力の強い野菜とは、たとえばアスパラガスの場合、できるだけ根の太いものを選ぶこと。水は、鳥海山の超軟水と月山の軟水などを、料理の種類によって使い分ける。塩は、世界各地から集めた10数種類のものを、使い分けながら、極力控えめにつかう。走る獣や飛ぶ鳥は、肉が赤い。ケージの鶏や豚舎のブタは、肉が白い。だから、肉は、できるだけ赤いもの、ピンクのものを使う。また、緑色の濃い野菜は、農薬を多くつかっている。だから、淡色のほうが安全だ、等々。
奥田シェフの経験に則った「食材・料理」論に、なるほどね~と納得しながら、聞きほれました。
講演会のあとは、コーヒーを飲みながら、料理研究科で声楽家の田中利幸さんのスピーチと歌をたのしみました。「食は人びとに、幸せと喜びを与えてくれますが、逆に、悲しみと不幸せも、もたらします」とのスピーチには、ドキッとさせられました。田中さんのサンタ・ルチアの歌声に圧倒されて、講演会が終演となりました。
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