韓国併合100年-日韓知識人共同声明
朝日新聞は5月11日、「韓国併合条約「当初から無効」 日韓知識人が共同声明」と題する小さな記事を報じました。私は、この小さな記事を新聞紙上では見落とし、後日asahi.comで読みました。日本では他に、東京新聞、共同通信、ジャパンタイムスが報じましたが、いずれも記事は小さく、他のメディアは完全に無視しました。韓国では、主要紙が第一面で報じ、かつ全社が社説でも取り上げました。岩波『世界』7月号では、この『韓国併合100年-日韓知識人共同声明』とともに、発起人である荒井信一氏の論文と、和田春樹氏の経過報告を掲載しています。和田春樹氏は、この『共同声明』を報ずる上記のマス・メディアの日韓の落差が、「あらためて問題の現実性をわれわれに気づかせてくれた」と指摘しています。
問題のポイントは、1965年6月に締結された日韓基本条約の「第二条 旧条約無効規定」の解釈に関わっています。
「第二条 千九百十年八月二十二日以前に大日本帝国と対韓帝国との間で締結されたすべての条約および協定は、もはや無効であることが確認される。」
「もはや無効である」の英文=already null and void」。
韓国側解釈:1910年8月の併合条約の時点で、「すでに」無効になっていた。
日本側解釈:1948年8月の大韓民国成立時点で、「もはや」無効になった。
日本側解釈の意図するところは、「併合条約等は、「対等の立場で、また自由意思で結ばれた」ものであり、締結時より効力を発生し、有効であった」というものであり、韓国側解釈は、「「過去日本の侵略主義の所産」の不義不当な条約は当初より不法無効である」というものです(『共同声明』より)。荒井信一氏は、日韓の歴史的和解のためには、「まず韓国の主張する旧条約無効の主張を日本政府が認めることが出発になる」と指摘し、次の3つの理由をあげています。
①日本政府は、当時の国際法を前提に旧条約に法的瑕疵はなかった、との立場であるが、「当時の国際法」への固執は、帝国主義時代の「力の論理」を肯定することになる。
②旧条約の無効は、現在まで1世紀におよぶ韓国(朝鮮)人の民族的な主張であり、隣国の人々の心に生きつづけてきた歴史を尊重しなければならない。
③植民地支配の歴史的不当性について、すでに日本政府は公式に認めている(95年・村山談話、98年・日韓パートナーシップ共同宣言、02年・日朝ピョンヤン宣言)ので、「歴史的に不当だが法的には合法」論から「歴史的にも法的にも不当」論への転換は、困難はあるが現実的に不可能ではない(荒井信一稿『植民地支配責任と向き合うために-韓国併合100年に寄せて』)。
そして荒井氏は、旧条約の無効について、日本政府の宣言または国会決議によってなされることが現実的だと主張しています。
『共同声明』は、「罪の許しは乞わねばならず、許しは与えられねばならない。苦痛は癒され、損害は償われなければならない。・・・・・このようにすることによって、韓国と日本の間に、真の和解と友好に基づいた新しい100年を切り開くことができる。」と表明しています。民主党政権は、東アジア共同体の構築を、国の内外に発表し、とりわけ韓・中両国に提案しました。この共同体構築の大前提として、真摯に歴史と向き合い近隣の国々との和解と友好を進めなければならないと、確信します。このためにも、『韓国併合100年-日韓知識人共同声明』が、日本社会で広く読まれることを熱望すると同時に、国会と政府が、この『共同声明』を受けて、具体的な行動をとることを、強く要望します。
この韓国併合100年について、沖縄の人たちはどのように見ているのかと思って、ネット・サーフィンしていたところ、沖縄タイムスの「韓国併合100年 確かな土台を築く時だ」(10.2.13)という記事がありました。このなかで、沖縄の歴史家比嘉春潮をとりあげ、次のように記しています。
「当時、南風原尋常小学校の訓導だった歴史家の比嘉春潮は、苦渋に満ちた感想を翌月の日記に記している。「万感交々(こもごも)至り筆にする能(あた)わず。知りたきは吾が琉球史の真相なり。人は曰(いわ)く、琉球は長男、台湾は次男、朝鮮は三男と」
琉球処分によって日本に統合された沖縄。日清戦争の結果、日本が領有することになった台湾。領土の安全に死活的な影響を及ぼす「利益線」と位置づけられ日本の植民地となった朝鮮。比嘉春潮の比喩(ひゆ)は、当時の三者関係を浮かび上がらせる。戦後、朝鮮半島が北と南に分断され、沖縄が軍事要塞(ようさい)化する中で、日本は冷戦の受益者であり続けた。韓国併合100年の歴史は、そのことをも浮き彫りにする。」
菅直人首相は、6月23日の沖縄慰霊の日に、沖縄を訪問する予定だと報じられています。また記者会見では、琉球処分についての読書をしているとの発言がありました。菅氏の歴史に向き合おうとの姿勢は評価したい。そして、現実主義者であることを標榜する首相であってみれば、普天間基地の辺野古移設が非現実的であることも、承知していることだと思います。そのうえで、鳩山内閣の日米合意を守るという。菅氏に残された道は、ただひとつ。東アジアに非可逆的な平和を構築し、沖縄および日本全国の米軍基地の存在を陳腐化すること。このために菅首相はただちに、平和外交のイニシァティプを積極果敢にとっていくことて゜す。このための大前提として、東北アジア近隣諸国との歴史的和解へ、一歩踏み込まなければなりません。今年の8月22日、韓国併合100年の日は、大きなチャンスだと思います。
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