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2010年8月14日 (土)

若松孝二監督作品『キャタピラー』

Affiche_caterpillar_4053_rgb_web226 若松孝二監督作品『CATERPILLAR キャタピラー』が、シネマテークたかさきで今日から、公開されました。このミニシアターの60ほどの席は、初回の朝10時にはほぼ満席となり、映画ファンのこの映画への期待感が、伝わってきます。戦争の真実から目を背けるなという若松監督の、煮えたぎるような熱いメッセージが、広島・長崎への原爆投下の日をすぎ、8.15を翌日に迎えたこの日、映画を見た者の胸に痛烈に、迫ってきました。

 

 中国戦線から帰還した兵士。彼は、四肢と聴力を失い、顔面の半分を醜く潰され、言葉もほとんど失って、妻のもとに帰ってきました。国家は彼の軍功に対して、数々の金鵄勲章を与え、マスメディアと世間は、生ける軍神という名称を与えました。この生ける軍神に残されていたのは、旺盛な食欲と飽くことのない性欲のみ。介護する妻は、お国へのご奉公だとしてひたすら、この夫に残された欲望を満たすことに努めます。二人の過ごす、藁葺き家の座敷の床の間には何時も、天皇・皇后の写真(御真影)と軍功を讃える新聞記事と金鵄勲章とが、掲げられています。これら三点セットを慰めに、四肢と言葉を失ってもなお、自己を肯定し続けようとする夫婦。しかし、その歪(イビツ)な生(性)を肯定し切れなくなるのには、さほど時間はかかりませんでした。 
 出征兵士を送って帰宅した妻に、いつものように前掛けを噛んでセッ クスを求める夫。疲れた妻は、軍神さまにともらった卵を、夫の口元に押し付けてグシャグシャに潰してしまいます。そして泣きながら、夫を抱きしめます。夫の顔中にひろがった卵のなかみは、生々しくエロチックな感じがしました。もっとも印象的で、心を揺さぶられたシーンです。
 夫は、妻と抱き合いながら、中国で強姦のうえ刺殺した女性の記憶をよみがえらせます。戦場を思い出すにつれて、ただふたつ残されていた欲望は消え失せてしまい、七転八倒で転がり込みます。それをみた妻は、思わず「いもむしゴロゴロ・・・」と口ずさみます。

 ここで初めて、題名のCATERPILLARの意味が、判明します。英和辞典では、①イモムシ、②無限軌道式トラクター、③他人を食いものにするする人、の3つの意味が付せられています。②は勿論、戦車の意味でもあるし、③はこの夫を指すのかもしれません。しかし、戦場で中国人女性たちを虫けらのように犯し殺害してきた軍人が、自ら戦場で四肢を奪われ言葉を失いイモムシのようになってしまった。戦争がひとを、虫けらにしてしまう残忍な悲劇性を、監督は題名に込めたのだと思います。
 多くの人びとに是非、観て欲しい映画です。

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