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一休宗純著『狂雲集』に集められた千余首の詩は、加藤氏の分類によれば、①臨済宗の禅を説くもの、②禅宗寺院批判、③盲目の侍者森女との恋、の3種のカテゴリーからなっています。前二つについては、昨日の記事で紹介しました。伝記作者や研究者の間で異論が多いのが、第三の「好色の詩」です。
森女とは何者か、そして一休と森女との出会いは、如何。水上勉はその著書『一休』(中公文庫)で、次のように記しています。「森女は、文明二年(1470年)、住吉の薬師堂に野宿して、艶歌をうたう鼓うちの盲女であった・・・。一休は、その盲女をみて魅かれたのである。美貌と、その歌と、身のこなしに魅かれた。」一休77歳、森女30歳(推定)での邂逅。(『一休と森女絵図一部』大阪・正木美術館所蔵)
この肖像画に描かれた一休は、あの頓知と機転の一休さんや、やがて成人となって人々に尊敬されたという高僧一休宗純とは、大分イメージを異にします。加藤周一氏は、エッセー『二人一休』(ちくま文庫『三題噺』所収)のなかで、実在の歴史的人物の一休は、七言絶句からなる漢詩集『狂雲集』の著者で、そこから浮かび上がってくる著者の人格は、「禅をふまえて不羈フキ奔放、一切の社会的約束に捉われず、権威に屈せず、わが道を徹底して生き抜く、激しいものである」と紹介していますが、この肖像画の一休は、まさにこの歴史的実在の人そのものといえます。もう一人の一休は、子どもたちにも馴染みの一休で、江戸時代初期に創作された物語のなかのもの。実在した一休とは、深い関係はない、と加藤氏は云います。(紙本淡彩一休和尚像・墨斎筆・国立博物館蔵)