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2010年11月15日 (月)

武器ではなく水を~アフガニスタン支援の実践哲学~

Photo_2  日本でいま、最も尊敬を集めている人物の1人は、間違いなくこの人だと思います。アフガニスタンで26年のあいだ、医療と農業のために、支援活動をつづけてきた中村哲さんです。昨夜のNHK・ETV特集(『アフガニスタン永久支援のために~中村 哲 次世代へのプロジェクト~』)は、中村医師たちの行ってきたアフガニスタンの沙漠での用水路建設を取り上げました。(写真:ペシャワール会HPから)  

 戦争が始まって1年半たった2003年3月、アフガニスタン東部ニングラハル州の沙漠に、用水路を通す工事が始まりました。渇水期でも滔々と水の流れるクナール川からガンベーリー沙漠までの25.5㎞の用水路建設です。日本のNGOペシャワール会に集まった寄付を財源に、中村医師が、河川工学を基礎から学び、自ら現場監督となって、地元農民の手によって、工事が進められました。農民たちの中には、昨日まで武器を向け合わせていた元タリバン兵や米軍協力兵が一緒に、参加しています。
 工事は機械にたよらず、ツルハシとシャベルをもった人力によって、進められました。また、用水路の護岸工事は、コンクリートではなく、蛇籠(ジャカゴ)工法が採用されました。この工法は、石を詰め込んだ金網製の籠を目的に合わせて積み上げるもので、江戸時代以来日本に伝わってきた伝統工法です。現在でも、河川・海岸・治水の土木工事に使われており、私の家の近くでも、土砂崩れした道路の擁壁や住宅の裏山の崩落防止のために、使われています。
 何故人力に頼り、蛇籠工法をとるのか。中村さんの話は、明快です。お金はないが、石はいくらでもある。しかも農民たちはみんな、石が好きで優れた石工であり、楽しく仕事がすすんでいく。勿論中村さんは、農民たちの自立によって、自分が去った後、用水路の補修が現実的に可能となるように計画し願っているのです。番組では、一時帰国した中村さんが、こうした日本の伝統的な治水技術を、福岡・柳川水路に学んでいる様子が、紹介されました。モンスーン気候で「水」を熟知した日本の伝統技術が、アフガニスタンの沙漠に生かされているのです。
 着工して半年後、米軍ヘリコプターによって、機銃掃射攻撃を受けたこともありました。岩盤を砕くためのダイナマイトの爆発音を、ヘリコプターへの攻撃と勘違いしたものでした。また2008年8月には、日本人ボランティアの伊藤和也さんが、タリバンに拉致されたうえ殺害されるという事件がありました。これを機に、中村さん以外の日本人スタッフは全員、帰国しました。中村さんが1人残り、その陣頭指揮のもとに、工事が続けられました。ほとんどが農民であるアフガニスタンの人びとにとって、戦争では何も解決しない、ただ必要なものは水と食べ物だ、という信念が中村さんを支えます。
 そして2010年2月、25.5㎞の用水路が完成しました。村の式典では、大男の知事が小柄な中村医師を軽々と抱き上げ、人びとは大きな口をあけて笑い、喜びを分かち合いました。この用水路によって、3,500haの沙漠が耕地に変わり、27,000tの小麦やトウモロコシが収穫され、5万人分の食料が確保される、ということでした。村を捨てた人びとが、次々と帰ってきます。カブやダイコン、ニンジンなどの野菜を作って現金収入を売る人の出てきました。
 こうして、中村医師とペシャワール会の「緑の大地計画」が、成功裏に終了しました。中村さんは次に、この成果を持続可能なものにしていくために、「新しい村建設」に取りかかり始めます。

 中村さんの活動に、感動しました。決して大言壮語せず、静かに「戦争で何かを解決するという考えは、行き詰っている」と話す言葉は、単純明快でわかりよく、真実であることを確信させます。用水路完成後、帰村した農民が、「これで、家族を養うことができる」と喜びをかみしめながら語った言葉こそ、中村さんとペシャワールの会の人たちの活動の到達点だと思います。日本政府のアフガニスタン支援が、この経験を踏まえてなされることを、強く要請します。
 
  

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コメント

以前同じようなNHKの番組を見て感動した記憶がありますが再放送だったのでしょうか?中村医師はすごいですよね。
最近日本の政治及び政権が揺れているが、時の権力者が中村医師のような純粋な気持ちで施政すれば、例えその政権が短命に終わろうとも、そのことが日本の政治を変え後世に名を残すだろうと思うのだが、なかなか世の中上手くいかないものですね。1年前の熱気に満ちた政権交代は何だったのだろうかと思い返す昨今です。やはり人間は豊かになり権力を握ると初心を忘れてしまうのでしょうか?

コメントありがとうございます。
中村哲さんは、私たち日本人の誇りです。
政治家の中に誇れるような人物を求めませんが、中村さんの実践を政策に生かす政治家が現れれば、日本という国家がきっと、世界の心ある人びとから、尊敬されるだろうと確信します。

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