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2011年2月 3日 (木)

農文協編『TPP反対の大義』を読む

Tpp_2  年初に注文した『TPP反対の大義』(農文協編2010/12/25刊) が、やっと届きました。手にしたのは、1月20日発行の第2刷分ですが、週明けの新聞広告では既に、第5刷まで増刷しており、本書緊急発刊の反響ぶりが、窺えます。編集部は「まえがき」で、本書の目的を、次のように書いています。
 「本書では、TPPの参加が、いのちと暮らしを支える農林水産業はもとより、圧倒的多数の商工業や地方経済に大きな打撃を与え、日本社会の土台を根底からくつがえす希代の愚作であることを明らかにします」。 

 執筆陣は、新自由主義を一貫して批判し続けてきた経済学者の宇沢弘文氏をはじめ、農業経済学や農政学の専門家、JAシンクタンクの研究者、生協関係者、哲学者、作家、農家など26名の人々が、それぞれの立場から、TPP参加の問題点を指摘しています。そのうちのいくつかを紹介します。
 冒頭、宇沢弘文氏は、農林水産業が、衣・食・住生産と自然環境保全と自己疎外なき生産活動によって、社会全体の安定的発展に中核的な役割を果たしてきたと評価し、今後、その営為の場としての農村が、ある程度安定的な水準に、政策的に維持されることが重要である、と論じています。しかし、民主党政権は、「大多数の国民の期待を無惨に裏切って、卑屈なまでにアメリカの利益のために奉仕して」TPP加入を目論み、社会的共通資本としての農村を破壊しょうとしている、と厳しく批判します。(宇沢稿『TPPは社会的共通資本を破壊する』) 宇沢氏は、社会的共通資本について、「一つの国ないし地域に住む人々が、ゆたかな経済生活を営み、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような自然環境や社会的装置」と定義しています。
  田代洋一氏は、 TPPは2006年、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの小国4ヶ国が、「中国の台頭に抗して通商国家としての活路を求め」て発効させたFTAだつたのが、アメリカの参加表明(09/11) により「小国のFTA」から「帝国のFTA」に豹変した、とTPPの変質を指摘します。そして民主党の菅内閣は、「日米安保体制依存と農業なき通商国家化」をめざして、アメリカ主導のTPPへのめりこんでいった、と批判します。このTPPの最大の特徴は、「FTAでは通常認められている例外措置を認めない「例外なき関税撤廃FTA」である」ために、2000年のWTA交渉開始にあたり日本政府のとった「農業の多面的機能や食料安全保障等の非貿易的関心事項への配慮による『多様な農業の共存』を訴えた」交渉理念は、最早、放棄されたのです。(田代稿 『TPP批判の政治経済学』)
  アメリカのTPP参加の意図について、服部信司氏は、次ぎの3点を指摘します。①従来のアジア太平洋地域での経済連携の枠組みは、いずれもASEAN中心・アメリカ不在を特徴としており、このままでは、アメリカはアジアの経済成長から取り残される恐れがあった。②オバマ政権の輸出拡大戦略、特に成長著しいアジアへの輸出拡大を意図している。③アジアにおいて経済的・政治的・軍事的存在感を高める中国に対して、アメリカ主導のグループ形成によって、圧力を強めるという戦略的側面がある。(服部稿『TPP-アメリカの対アジア戦略』)
 鈴木宣弘・木下順子の両氏は、TPPをめぐる議論をする際の問題の構図を、次のように描きます。「〈国益VS農業保護〉ではなく、〈輸出産業の利益VS中小企業、金融、医療、労働者の移動を含むサービス分野、繊維、皮革、履物、銅板、米、乳製品などの重要品目、食糧生産崩壊による国家安全保障のリスク、水田のダム機能や生物多様性、国土・地域の荒廃などの損失〉。(鈴木・木下稿『真の国益とは何か』)
 森島賢氏は、TPPの問題の焦点は、穀物輸入量の激増によって、穀物生産とくに米生産は壊滅状態となり、食料自給率は14%まで下がることだ、と指摘します。そして、自由貿易圏形成の前提として、加盟各国が、「互いに多様な農業の共存を認め合い、食料主権を尊重しあうことが、必須の条件である」と主張します。食料主権の行使は、現在のロシアによる小麦輸出の禁止にみられるように、世界の常識となっているのです。(森島稿『TPPと日本農業は両立しない』)
 コメ生産が壊滅的となった農村風景は、どのようになるのか。安藤光義氏は、つぎのように予想します。「近年、脚光を浴びている植物工場に代表される施設園芸や外国産飼料に依存した加工型畜産などへの特化によって・・・日本農業は確かに国際競争力をつけ、荒涼たる原野の中に温室や畜舎がぽつりぽつり建ち並ぶ風景に農村景観が一変してしまう」。(安藤稿『TPPと日本農業の構造問題』)
 では、すべてのFTAを否定するのか。決してそうではありません。先にあげた鈴木・木下両氏は、これまで進められてきたアジア諸国とのFTA交渉に、重要なヒントを見出しています。即ち、「日本側が重要品目の例外扱いを求める代わりに、・・・(例えば)・・・日タイFTAでは、農業分野でのさまざまな援助協力事業の拡充を打ち出し、さらにタイの零細農民の所得向上に配慮した優先的措置も表明したことが、農産物のスムーズな決着に貢献した」と事例的に述べています。さらに、飯國芳明氏は、社会的・自然的共通基盤をもったモンスーン・アジアでの協同の可能性を探るべきだと主張します。しかしTPPによって、モンスーン・アジア諸国は分断され、協同の芽は摘み取られようとしています。(飯國稿『北東アジアにおける食料・農業協同の芽を摘み取るTPP』) 
  本書にはこの他、多くの論稿が寄せられており、TPP問題を考えるための基礎的かつ不可欠の書になると思います。主要なマスメディアのTPP賛歌は、異様な感じすらしますが、市民の一人ひとりが、正確な情報をもって的確な判断を下すならば、TPP参加構想を菅内閣とともに、吹っ飛ばしてしまえるものと確信します。
 

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