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2011年3月 1日 (火)

京都小旅行

P1140294_1  先週末、同窓会と墓参のため、京都へ行ってきました。どちらも、過ぎ去った日々を、今に確かめるための習い性ですが、何時まで続くことか、不確かな感じがします。ただ、京都の町は、故郷であると同時に、訪問のたびに新しい発見を提供してくれる魅力的な土地であり、帰路はいつも、次の訪問を心に期するのです。

 学生時代世話になった下鴨の友人宅へいく途中、加茂川に架かる出雲路橋の西詰め近くに、閑臥庵(かんがあん)という黄檗宗の寺がありました。P1140289_1_3中国風の山門をくぐったところの境内には、にぎやかな石像群が、思い思いに、立ったり坐ったりしていました。30体近くの羅漢像です。書や巻物を読む者、横笛を吹く者、片手を前に差しだし語りかける者、両手を額に当てにっこりする者、ふくよかな半裸体で微笑む者など、その豊かな表情に思わず引き込まれます。みなに共通するのは、どっしりとした穏やかさです。多分、これらの羅漢たちは、彫られていく年もたっておらず、主のいない座石が何個が置かれていることから想像すれば、未完成の羅漢群像なのかもしれません。観光地から離れた路地のような細い道路沿いに、このように心惹かれる仏像が、さりげなくたっているのも、京都という町の魅力です。 
P1140317_1_3   友人宅は、大学のすぐ近くにあり、学生時代はしょっちゅう出入りしていました。だから、母親のK子さんには、ひとかたならず世話になりました。今回は、4年ぶりの訪問です。86歳と高齢ながら、昔と変わらず、しゃきっとなさっています。先に到着していた当家の友人たちとともに、茶を飲みながら昔話や近況を報告しあって、ひと時をすごしました。そして帰り際、K子さんが、自作の「宝物」を見せてくれました。「貝あわせ」のセットです。 K子さんは、 形の大きなハマグリを料亭等でもらいうけ、それに花や楽器を描きこんで、「貝あわせ」を作ったのです。
P11403041_1_3 「貝あわせ」については、雛人形の道具類のひとつである「貝桶」が、それの入れ物であり、遊び方は、トランプの神経衰弱のようなもの、といった程度の知識しかありません。そこで、広辞苑から「貝合せ」の項を引用します。
 「平安末期から一般に行われた貝殻を覆い合せる遊び。360個の蛤の貝殻を左貝・右貝の両方に分ち、右貝を地貝(じがい)、左貝を出貝(だしがい)と称する。地貝のすべてを甲を上にして並べ、出貝を1個ずつ出し、これと合う地貝を多く選び取ったものを勝とする。P1140311_1_3後世、左右の貝の裏に絵または歌の上の句・下の句などを書き込んだ。貝覆い。」(広辞苑より)
 自宅にあった香置き用の大きな蛤を観察すると、二枚貝の番目(つがいめ)には、凹(陰)・凸(陽)があり、上記の左貝は陽であり、右貝は陰になります。この二枚貝の左右の組み合わせは、相手の貝殻しか組み合わせることができません。確かに、手元の蛤は、ぴったりと組み合わさっています。この自然現象が、貝あわせの遊びの原点です。
P1140312_1_3    K子さんが描いた花や楽器は、どれも色鮮やかで美しく、繊細な線描もしっかりして、いかにも雅(みやび〉やかです。貝殻を入れた木箱の上蓋は、緋色の布地で表装されて、いかにも宝物入れにふさわしい。これは、書家の息子さんが作ったとのことでした。また、色彩豊かな畳縁(たたみべり)を使った小畳は、息子の友人の畳職人が作ったという。京都にはこうして、古くからの伝統工芸とそれに支えられた遊びの文化を伝えていこうとする市民たちが、深く根を張っているのです。京都のもうひとつの、大きな魅力の在り処が、こうしたところにあるのだと思います。雅の京文化の担い手たちを間近に見て、いささか興奮しました。
P1140363   旅行の三日目、宇治に住む姉夫婦とともに墓参を済ませ、土産を買うために、北野天満宮近くの七味唐辛子の店に寄りました。胃の弱い私は、関東の唐辛子の多い辛すぎる七味は、苦手です。京都の山椒の香りのきいたソフトな七味唐辛子が、好きです。この店では店主が、客の目の前で、好みを聞きながら調合してくれます。白胡麻、麻の実、青紫蘇、青海苔、けしの実、黒胡麻、山椒、唐辛子が素材です。八味あります。 店の主人は、ええ味と香りをつけるため8種類の材料を使ってます、と京都弁で云いました。P1140359_1_3姉が主人に聞きました。「おばあちゃんは、元気にしたはりますか」。この店は以前、北野天満宮近くの下の森商店街にあって、おばあちゃんがひとりで商っていた、間口の狭い小さな七味唐辛子屋さんでした。それが今、京都でも有数の七味唐辛子屋になったのです。昔は地元西陣の人たちをお客に、細々と商っていた小さな店が、今では観光客相手に、立派な店を構えて商売をしています。京都の味は、こうした小商人たちによって、受け継がれているのです。

 昨夜京都から帰宅し、今朝4日ぶりに、犬たちと散歩に出かけました。雨上がりの里山に、今年初めての鶯の鳴き声を聞きました。

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