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2011年4月15日 (金)

チェルノブイリからの教訓

Img_9779_1   テレビ画面には、身重の妻とその夫が、避難所での生活に耐えられず、原発から半径30㎞圏内の自宅に戻ってきたときの映像が、映し出されました。若い夫婦の境遇に同情しながらも、すぐに逃げて欲しい、と強く思いました。政府の「屋内退避」や「避難準備」の曖昧な指針のもとで、こうしたことが日常化しています。日本を覆う「核」に対する不感症に、恐怖します。(写真:藤岡市の白石稲荷山古墳)

 昨日の朝日新聞投稿欄に、長崎大学名誉教授・前放射線影響研究所理事長の長瀧重信という人が、「放射能汚染 対話と開示で被害最小に」という小文を寄せています。その中で、チェルノブイリ原発事故による健康被害について、次ぎのように述べています。「25年たったいま、周辺住民の健康状態に関する国際機関の報告によれば、子供の甲状腺がんが増加したが、それ以外には、セシウムで高度に汚染された地域の住民も含めて、放射線による病気の増加はまったく認められていない。報告は、現在の最大の問題は放射線に被曝したという精神的影響(PTSD)だと結んでいる」。この小文を読み新聞の顔写真を見て、この人物は、原発事故発生からさほど経っていない時期にテレビに登場し、原発事故に伴う放射線障害について解説していた医者であったことを、思い出しました。その時、次ぎの2点について、強く印象付けられたことを、記憶しています。ひとつは、当時、事故評価尺度(INES)でレベル4あるいはレベル5といっていた段階でしたが、何故か唐突に、最悪レベルのチェルノブイリ原発事故を話題に上げたこと、二つ目は、そのチェルノブイリにおける放射線被害は、汚染された牛乳を飲んだ子供たちに多発した甲状腺ガン以外は全くなかった、と云うものでした。あのチェルノブイリでもこの程度なら、それより数段低レベルの福島原発事故で放出された放射能の影響は、さほど心配することはない、というメッセージを読み取り、極めて強い違和感を覚えました。ただ既に、多くの原子力工学の専門家たち-すべて原発推進派-が、福島原発事故のレベルを、できるだけ低く評価しょうとしていることを知っていたため、原発擁護プロパガンダの第二弾として、放射線医学の専門家たちが登場してきたのだ、と納得したものです。
 しかし、チェルノブイリ原発事故の真実は、どうだったのか。また、どのようにあり続けてきたのか。NHKスペッシャル『汚された大地で~チェルノブイリ20年後の真実~』(06年放映、YouTubeにアップ)が、多くのことを教えてくれます。この20年の間、人びとの苦しみは続き、事態は悪化するばかりです。ウクライナのあるアパートには、放射線を被曝した人たちが住んでいますが、ガンなどの重病患者が増加し、途切れることなく死者が出ています。甲状腺ガンで苦しむ子供たち。そして、20年たった現在、大人たちの甲状腺ガンが増加してきています。白血病に苦しみ、亡くなっていく人たちも、紹介されます。また、染色体の異常と遺伝的影響が言及されます。ここでドキュメントされているチェルノブイリは、長瀧氏のそれとまるで違います。何故、こうなったのか。IAEA(国際原子力機関)報告が、その答えを教えてくれます。すなわち、「原発事故で放出された放射線被曝による死者は、全部で60人足らず」「健康被害の多くは、被曝の影響とはいえない」。このIAEAによる評価に対して、患者の支援者や世界の多くの医学者から、「問題の幕引きをはかる過小評価」だとの批判があがりました。長瀧氏は、このIAEA報告に依拠した「過小評価」の立場からの発言だったのです。
 先日、NHKに出ていたある医者の発言に、ほとんど驚愕しました。映画監督の山田洋次さんを髣髴とさせる話し方で、被災者の目線に立った解説に、嗚呼こういう医者もいるんだなあ、と感心してみていたとき、最後に先生は、つぎのようなことを言い放ちました。10年後、20年後に発生が懸念される晩発性障害については、日進月歩で進歩する医学のおかげで、ほとんど治りますので心配ありません。一瞬耳を疑い、家内に聞き返したら、間違いなくそのように言った、と確認しました。既に放射線を浴びてしまい、急性と晩発性の障害に不安となっている患者に対しての発言ではありません。現在とこれから、放射線被曝の危険性がある不特定多数の日本に住む人びとに向かって、低濃度の放射線を浴びても、晩発性障害を被っても、これからの医学の進歩で直りますから心配しなくていい、私はこのように聞き取りました。
 これだけに深刻な原発事故を起こし、大量の放射能で空気と水と土壌を汚染し、世界中の人びとを不安と恐怖に陥れながら、原発推進派の人たちは、事故を起こした原発すら、「安全・安心」と呪文のように唱え続けているのです。最早、彼らの言辞は、破産しているだけでなく、犯罪者の言葉へと堕してしまっているのです。政府は3月31日、事故対策の助言を得るため、医師の資格を持つ有識者7名を、内閣官房の政策調査員として採用を決定しました。長瀧重信氏は、そのひとりです。冒頭に取り上げた若い夫婦には、是非とも、『汚れた大地』を見て欲しい。そこには、急性白血病に冒された36歳の男性が、病床に臥しています。彼は、16歳の時から19年間、チェルノブイリから約100㎞離れた居住制限区域外の街に住み続けてきました。そこは、セシウムの低線量による汚染地域でした。この間彼は、普通の生活をし、結婚し、そして子供も授かりました。しかし、35歳の時突然高熱に襲われ、急性白血病を発病したのです。

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