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2011年5月31日 (火)

ドキュメンタリー映画『地下深く 永遠に~核廃棄物10万年の危険~』

Img_9968_1  原子力推進派の、反原発・脱原発を訴える人々に対する批判は、例えばこんな具合です。「産業技術の急速な発展に違和感を抱く反文明活動家達は、安全管理体制のゆるみが招いたチェルノブイリの暴走事故などを種にホラー・ストーリー作りに没頭し、大衆を原子力嫌悪の渦に巻き込もうとする」(日本原子力文化振興財団 秋元勇巳理事長の文章から)。

Img_9916_1_2  これは、文芸評論家の川村湊氏が、3.11直後から、ネット上にある原発推進派の過去の言説を丹念にフォローし、それに批判や感想を書き加えて4月下旬に出版した『福島原発人災記 安全神話を騙った人びと』に引用されたものです(同書104ページ)。では秋元氏にとって、ドキュメンタリー映画『地下深く 永遠に~核廃棄物10万年の危険~』(原題“Into Eternity” 2010年デンマーク、5/18NHK・BS1再放送)についてもまた、「ホラー・ストーリー」ということになるのでしょうか。Img_9915_1 放射性廃棄物の危険性と処理の困難さを訴えたこのドキュメンタリーは、「恐怖」と「不安」を掻き立てる意味でホラー的であり、また、高濃度の放射性廃棄物の処置が、「地下深く永遠に」埋めるしか方法がなく、しかもそれは「10万年の危険」を宿していることから、「原子力嫌悪」に陥らせる映画ともいえます。しかしこのドキュメンタリーは、21世紀の人類が生み出した放射性廃棄物の処理について、フィンランドにおける先駆的な取り組みを、忠実に紹介するものです。原発賛成派であれ反対派であれ、避けて通ることの出来ない深刻な課題です。事実にもとずくだけに、不安と恐怖と嫌悪の感覚は、空想的ではなく現実的です。なお、このドキュメンタリー映画は現在、全国各地で上映中の話題の映画『100,000年後の安全』のテレビ版です。

Img_9925_1_2  「ここは、私たちがあるものを、埋めた所です。はるか未来に生きる人類を守るためです。この施設を造るため、私たちは大変な努力をしてきました。この場所は、永久に手をつけずにおいて下さい。掻き乱すようなことをしてはいけません。人類が生きていける場所ではありません。決してここには、近づかないで下さい。そうすれば、安全です」。
 ナレーションのいう「あるもの」とは、原子力発電の副産物、放射性廃棄物。消去することも無害化することもできない放射性廃棄物を、どのように安全に処分するか?様々な検討の結果、「ここ」に埋めることになりました。「ここ」とは、「オンカラ」 ONKALA。フィンランド語で「隠し場所」の意。それは、フィンランドの首都ヘルシンキの西方にあるオルキルオト島に造られました。Img_9921_1_2 オンカラは、蟻の巣のような地下道を通って、地下500メートルにある18億年前の安定した岩盤のなかに造られます。そこには、幾重にも安全策を講じた容器に入った放射性廃棄物が、埋設されるのです。放射性廃棄物の人体への危険性持続期間は10万年。だから、放射性廃棄物の貯蔵施設「オンカラ」は、少なくとも10万年は持ちこたえなければなりません。地上は、地震や洪水や戦争があり、とても脆(もろ)く不安定です。だから、「オンカラ」において、「10万年間、核廃棄物を人間や他の生き物から隔離することが可能だということを、証明したい」と技術者は証言します。しかし「10万年」とは、想像を絶する時間です。年表を見ると、15万年前にネアンデルタール人が出現し、3万年前に、現代人の直接の祖先のクロマニョン人が、ユーラシア大陸に広がった、とあります。目まいを催すほどの長い時間です。「オンカラ」の企画者たちは、6万年以内に氷河期が訪れることを想定しています。「草木は枯れ、あらゆるものが凍りつき、地表は永久凍土になるでしょう。そうすれば、放射性廃棄物の最終処分施設が、ここにあったこともきっと、人びとの記憶から消えてしまうでしょう」。Img_9936_1
 しかし、「オンカロの安全性を脅かす最大の要因は、人類そのものです」と彼らは考えます。未来の人類が、「オンカロ」を発見した時、彼らはこれを、何と考えるか?宗教的な建造物?墓地?宝物殿?「私たちは、ピラミッドが何故造られたのか、いまだそのすべてが解明できていないのと同じように、未来の人類が、オンカロを何のために建設したのか理解されないことを、覚悟しておかなければなりません」。そこで彼らは、すべての言語を網羅したマーカー(標識)の設置を考えます。しかし、数万年後の未来の人類が、その言語を理解できるのだろうか、ではイラストではどうか、普遍的なネガティブイメージのモニュメントを建造したらどうか、ムンクの「叫び」もその候補のひとつだ、・・・・・。こんな議論が延々と、交わされます。冗談ではなく、真剣な議論です。現実に起こるであろうシュールレアリスムな世界は、ホラー・ストーリーの世界よりももっと、怖い。Img_9956_1
 フィンランドで1987年、放射線廃棄物に関する法律が、制定されました。その三原則が、紹介されます。
1.未来の世代が負うことになる義務の軽減-未来の人類に過度の負担を強いるべきではない-
2.未来の世代の保護-未来の世代の住む世界の安全レベルが、現在のレベルより低くあってはならない-
3.放射線廃棄物の処分場についての情報を、未来の世代に伝えていくこと-すべての情報を永続的な方法で残すべきである-
 ここでいう「未来の世代」は、私たちの子供の世代から始まり、孫、ひ孫、玄孫とつづき、そして何千世代をも繰りかえし、やがて10万年後の未来の世代までを指します。しかし私たち日本人は現在、子供や孫の世代に対してすら、過重な負担をかけつつあります。子や孫の世代すら、保護できなくなりつつあります。100年後、500年後、1000年後、1万年後、○万年後の未来の世代に対して、私たちは、極限ともいえる無責任かつ犯罪者的立場に立っているのではないでしょうか。Img_9962_1_2フィンランド国民の選択した三原則は当然にして、私たち日本人も共有すべき普遍的価値だと思います。しかし、いままさに私たちは、こうした普遍的価値を見捨ててしまう危機にたっていると、このドキュメンタリー映画を二度、三度と繰り返し観て、痛烈に思いました。
 映画の最後に、インタビューに答えてきた「オンカロ」関係者たちが、はるか未来の人類に向けて、メッセージをおくります。
 「ここはオンカロの奥深く、あなた方が決して、足を踏み入れてはならない場所です。ここには、大量の放射能があります。気づかないうちに、体の異変が起こりはじめます。何も感じません。臭いもしません。でも、目に見えないエネルギーが、体を貫いています。それは、かつての私たちの文明が手にした宇宙の力、その最後の輝きです」。
 
Img_9951_1_2  このドキュメンタリー映画を観ながら、柳澤桂子さんの次の言葉を、思い返しました。
 「とにかく原子力発電はやめるべきです。その一番大きな理由は、高線量の放射性廃棄物を処理する方法がわからないということです。」(『原子力発電から離れよう』「世界」6月号)

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