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2011年5月18日 (水)

生命科学者・柳澤桂子さんの反原発への意志

  原子力問題でいちばんの悪者はいったいだれなのでしょう。
 原子力を発見した科学者でしょうか。
 原子力発電を考案した人でしょうか。
 それを使おうとした電力会社でしょうか。
 それを許可した国でしょうか。
 そのおそろしさに気づかなかった国民でしょうか。
 そのように考えてきて、私はふと、私がいちばん悪かったのではないかと気がつき、りつ然としました。
 私は放射線が人体にどのような影響をおよぼすかをよく知っていました。
 放射能廃棄物の捨て場が問題になっていることも知っていました。
 けれども、原子力発電の恐ろしさについては私はあまりにも無知でした。
   ― 柳澤桂子著『いのちと放射能』(ちくま文庫・初版は1988/11刊)より ― 

 この文章は、1986年のチェルノブイリ原発事故にあたり、生命科学者の柳澤桂子さんが、痛恨の思いと自責の念に駆られて、書き記したものです。そして今、福島の原発事故を経験しつつある日本と世界の多くの人びとが、柳澤さんと同じ思いに駆られているのではないでしょうか。現在の深刻な原発震災に向き合っていくために、読書人のひとりとして、原子力発電の恐ろしさについて、できる限り多くのことを学び発信していく必要性を、痛感します。
 私が柳澤桂子さんを知ったのは、『生きて死ぬ智慧』(小学館06年刊)と題した著書とDVD(朗読・インタビュー・対談)によって、柳澤さんによる般若心経・現代語訳に触れたときでした。その著書のあとがきに柳澤さんは、生命が誕生してから40億年、この間、生命は幾度も絶滅の危機に直面しながら生き残り、「いま、いのちが存在している事実」は奇跡だ、と感慨をこめて語っています。その生命が、福島原発事故で、危機に曝されているのです。
 そして今回、柳澤さんは再びペンをとり、『原子力発電から離れよう』(岩波書店『世界』6月号)と、日本社会に向けて強いメッセージを送っています。以下、要点を記します。

 「放射能の存在は人類の存在と相容れないのです」。何故か。「放射能は人間の一番大切なメッセージを持っているDNAを傷つける」からです。放射能がDNAを傷つけ、その結果、細胞ががんに転化します。この項、長文になりますが、引用します。
 「ヒトが短時間に全身に放射能を浴びたときの致死量は6シーベルトとされています。短時間に1シーベルト以上の放射能を浴びると、吐き気、だるさ、血液の異常、消化器障害などがあらわれます。このような障害を急性障害と呼びます。けれども、0.25シーベルト以下になると目に見える変化は何も現れず、血液を調べても急性の変化は見つかりません。
 ところが、細胞を顕微鏡で調べると、DNAからできている染色体が切れたり、離れなくなったりしているものが見られることがあります。このような異常は細胞が分裂して増えていくときにも確実に複写されていきます。
 この異常によって、細胞が分裂を停止する命令を受け容れずに増え続けるとがんになります。
 また顕微鏡で見てもわからないような分子レベルの異常が起こっていて、細胞が分裂停止命令を無視するようになったときにもがんになります。
 細胞のがん化は、外部に見られる障害をあたえるよりずっと低い線量で起こるのです。しかも今の医学では、がんが見えるようにならないと検出できませんから、発見されるまでに放射線を浴びてから5年、10年という長い年月がかかります」。
 柳澤さんは、弱い放射能ががんを引き起こすことを、『いのちと放射能』でも繰り返し指摘しています。しかもそのことは、分裂している細胞の多い子供や胎児に、より大きく影響を与えること、つまり彼らは最も放射線被害を受けやすいことを、警告します。そのメカニズムを、次のように記述しています。
 「分裂しない細胞では、DNAは何重にも折りたたまれて、染色体という形に凝縮されています。細胞が分裂するときには、染色体の凝縮がほどけて細い糸のように伸びます。このようなときには、放射線の被害を受けやすくなっています」。
 柳澤さんは、原子力発電に代わるものとして「太陽熱発電」をとりあげ、このメッセージの最後を、次の言葉で括っています。
 「とにかく原子力発電はやめるべきです。その一番大きな理由は、高線量の放射性廃棄物を処理する方法がわからないということです。やめれば道は開けます。やめないでいつまでもそれに頼っていては新しい道は開けません」。
 
 この生命科学者の「脱原発・自然エネルギーへの転換」を呼びかけた真摯なメッセージに、じっくりと耳を傾けたい。「低線量放射線は体にいい」とまで言い切る原発推進派の人びとの、いまや自棄(やけ)糞とも思える言辞に振り回されることなく、人間の生命の大切さを基本に語る反原発・脱原発の立場の人びとの言葉に、耳を傾け続けたい。

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