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2011年11月 1日 (火)

吉岡斉著『新版 原子力の社会史 その日本的展開』を読む

517sjwmisl_sl500_aa300_ 加藤哲郎さんが『ネチズン・カレッジ』で紹介されていた吉岡斉著『原子力の社会史 その日本的展開』(朝日選書1999年刊)が、99年以降の現在史を加え旧版を加筆・修正したうえで、『新版』として刊行されました。福島原発事故をきっかけに、歴史を検証する必要から出版されたものです。著者はあとがきに、「「現在史」とは、まさにリアルタイムで進行中の歴史を描くことに他ならない」と記しています。吉岡斉氏は、主に科学技術史を専攻し、政府の「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の委員を務めています。 

 この本は、日本の原子力開発利用の戦中・戦後の草創期から現在までの歴史を、批判的に描こうとするものです。著者が「歴史的な鳥瞰図」と表現しているとおり、原子力開発利用にかかわる政策と制度、推進体制、国際関係、技術開発、事故・事件等々、きわめて多岐にわたるテーマが、取り上げられています。もちろん、福島原発事故も、最重要テーマのひとつです。これらのうち、いくつかについて、紹介します。
 著者は、日本の原子力体制の構造的特質を、「二元体制的国策共同体」というキーワードで表現します。「二元体制」とは、電力・通産連合(旧通産省や電力会社など)と科学技術庁グループ(科学技術庁や動燃など)という二つの勢力によって、原子炉および核燃料の開発利用が、分割されたきたことをさします。前者は、商業段階の事業(発電用原子炉の導入・ウラン購入・ウラン濃縮サービス委託・使用済み核燃料再処理サービス委託)を担当し、後者は、商業化途中段階の事業(新型転換炉・高速増殖炉・再処理・ウラン濃縮等の開発)を担当しました。前者は、海外依存によって成功し、日本の原子力共同体の「主役」となりましたが、後者は、国内開発路線をとりましたが、いずれも実用段階にいたらず、「脇役」に甘んじてきました。
 では「国策共同体」とは、何をさすのか。著者は、「それは、ある特定の公共政策分野において、政治家・官僚・業界人からなる一群の集団が、高度な自律性をもち、それが国家政策の決定権を事実上独占するような状態をさしている」と定義します。アメリカの「軍産複合体」を模して「官産複合体」と命名し、それは日本の「あらゆる政策分野で形成され、意思決定過程を事実上占有してきた」と指摘します。原発事故後、メディアやネットでたびたび語られた「原子力村」こそが、原子力に関わる「官産複合体」であり「国策共同体」なのです。
 原子力共同体の二つの勢力の合意にもとづく方針は、国策としてオーソライズされ、民間企業をも束縛するものでした。こうした仕組みは、「国家総動員時代から敗戦後の統制経済時代にかけての名残りであり、先進国では日本だけが、こうした「社会主義的」体制を現在もなお引きずっている」のです。その結果、日本の原子力発電は、70年代から90年代半ばまでの四半世紀にわたり、ほとんど「直線的」ともいえる安定したペースで拡大しつづけてきました。欧米の原子力大国の原発建設ペースが、社会情勢の変化に伴う成長と停滞の中で、激しく時間変化しているのと対照的です。この結果、日本は2010年には、54基の原発をもつ原発大国となったのです。
 著者は、「原子力」という言葉の問題について、注意を促しています。正しくは、「核エネルギー」と表記すべきだとしたうえで、「核エネルギーという言葉は、軍事利用(military use)と民事利用(civil use)の双方をさす」が、「原子力という言葉は少なくとも日本では、もっぱら民事利用分野をさすものと理解されることが多」く、「核エネルギー技術の本質的なデュアリティー(軍民両用性)の理解を鈍らせる結果をもたらす恐れがある」と、鋭く指摘します。これは、日本の原子力外交政策に一貫して流れる特徴を捉えるうえで、極めて重要な指摘です。つまり日本政府は、アメリカの主導する核不拡散条約NPT体制の模範生として行動する一方で、核弾頭開発を除くすべての核開発プロジェクトを進め、軍事転用の危険性の高い核施設を日本国内に建設してきたのです(原子力民事利用の包括的拡大路線)。そして著者は、原子力開発と核武装の関連について、次ぎのように述べています。
 「こうした原子力民事利用の包括的拡大路線への日本の強いコミットメントの背景に、核武装の潜在力を不断に高めたいという関係者の思惑があったことは、明確であると思われる。たとえば1960年代末から70年代前半にかけての時代には、NPT署名・批准問題をめぐって、日本国内で反米ナショナリズムが噴出した。NPT条約が核兵器保有国に一方的に有利な不平等条約であり、それにより日本は核武装へのフリーハンドが失われるばかりでなく、原子力民事利用にも重大な制約が課せられる危険性があるとの反対論が、大きな影響力を獲得したのである。とくに自由民主党内の一部には、核武装へのフリーハンドを奪われることに反発を示す意見が少なくなかったという。こうした反対論噴出のおかげで日本のNPT署名は70年2月、国会での批准はじつに6年後の76年6月にずれ込んだのである。」
 福島の原発事故後の原発維持・脱原発論争のなかで、読売新聞が社説で、「日本は・・・核兵器の材料になり得るプルトニウムの利用が認められている。こうした現状が、外交的には、潜在的な核抑止力として機能していることも事実だ」(9/7)として脱原発論に反論し、自民党前政調会長の石破茂氏が、「原発を維持するということは、核兵器を造ろうと思えば一定期間のうちに作れるという「核の潜在的抑止力」となっている・・・原発をなくすということはその潜在的抑止力をも放棄することになる」(「サピオ」10/5)と主張しているのを見ていると、まさに著者のいうリアルタイムで進行中の歴史である「現在史」を、目の当たりにするものです。1970年も2011年も、原発事故以前も以後も、核武装の潜在力を高めておきたいという政治家とメディアが存続していることは、決して忘れるわけにはいきません。
 著者は、1995年から2010年までの時期を、「事故・事件の続発と開発利用低迷の時代」として章を起こし、この期の特徴として、事故・事件・災害の続発と原子力開発利用の低迷、原子炉新増設のスローダウンと設備利用率の低迷、国策民営体制のゆらぎ、などをあげています。どのような事件・事故・災害が発生したのか。
1.1995年12月8日 高速増殖炉もんじゅ事故 ①二次冷却系からのナトリウム漏洩・放射性物質の一部放出  ②動燃による事故情報の意図的な秘匿・捏造事件
2.1997年3月11日  東海再処理工場火災爆発事故 ①アスファルト固化処理施設の火災・爆発事故・大量の放射能外部へ拡散 ②消火活動に関する虚偽報告事件
3.1999年9月30日 JCOウラン加工工場臨界事故 ①非正規なウラン精製工程によって臨界事故発生 ②大量の中性子や放射性物質が放出 ③作業員3名が被曝し、うち2名が死亡 ④多数の周辺住民が避難
4.1999年9月~2000年1月 MOX燃料データ捏造(イギリス核燃料公社)およびMOX燃料加工工程での金属ねじ混入等組織的サボタージュ(べルギー BN社)発覚
5.2002年8月 原子炉検査・点検不正事件 ①80年代後半から90年代前半にかけて、福島第一・第二原発、柏崎刈羽原発合計17基のうち13基で、計29件の自主点検記録虚偽記載 ②中部電力・東北電力・日本原子力発電・中国電力でも不正判明
6.2002年8月以降 原子炉損傷隠蔽事件判明 ①福島第一・1号機 格納容器漏洩率検査実施中(91,92年)、偽装行為をした ②原子炉等規制法違反で東京電力に1年間運転停止命令 ③原子力安全・保安院は、GE関連元社員の内部申告(告発)から2年後に調査、また内部申告者氏名を東電に通報
7.2002年6月 中部電力浜岡二号機 配管水素爆発事故
8.2004年    関西電力美浜三号機配管破断事故
9.2007年    北陸電力・東京電力臨界事故隠蔽事件
10.2007年7月16日 柏崎刈羽原発の地震災害 ①新潟県中越沖地震発生 ②使用済核燃料プールの水の海への放出、ヨウ素等の放射能放出 ③変圧器火災の発生 ④原子炉システムの深刻なダメージ
11.2010年5月~8月 もんじゅ14年ぶりに運転再開-臨界-炉内中継装置3.3トンを原子炉容器内に落下
 たった15年余のあいだに、これだけの深刻な事件・事故や災害が、連続して起こったのです。高速増殖炉とその開発を担う動燃に対する国民の信頼は完全に失墜し、原子力安全・保安院の安全・保安機能への期待感はもとよりなく、虚偽・隠蔽体質の電力会社には厳しい目が向けられました。そして今年の3月11日を迎えました。東日本大震災における大地震と巨大津波は、予測不可能だった天災でしたが、それによって起こった福島第一原発の事故は、上記に箇条書きしたここ15年余の原子力施設の事後・事件・災害の延長上に、あまりにもすっきりと位置づけられるようで、いまさらにゾッとします。福島原発事故は、日本の核エネルギー開発の歴史からみて、起こるべくして起こった、否、原子力共同体が、起こすべくして起こした深刻な人災事故だった、といえそうです。
 本書は、原発の歴史を学ぶ者にとっては、最良にして不可欠のテキストだと確信します。

  追伸:加藤哲郎さんの『ネチズン・カレッジ』11/1に紹介されたMetisの「人間失格」をBGMで流している映像「風化してはいけない出来事」「忘れてはいけない日」「生きる、希望Version」を、2度3度と聞き返しています。日常生活を取り戻すことによって、3.11から続いてきた非日常的な日々を、忘れることを恐れます。この映像をみて、このことを強く感じました。

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