吉岡 斉著『脱原子力国家への道』を読む
6月20日に成立した原子力規制委員会設置法に、原子力基本法の改訂が盛り込まれ、「我が国の安全保障に資する」という文言が挿入されました。これに対して、お隣の韓国から、日本の核武装への懸念の声が、伝えられました。一方、韓国政府は、ウラン濃縮や使用済み核燃料の再処理などを自前で行い、「核の主権」に意欲を示している、と朝日新聞は伝えています(7/24日刊)。3・11から16ヶ月経った今、脱原発の大きな世論を向こうに、原発問題が公然と、安全保障の文脈で論議され、制度化されようとしています。
こうした時、脱原発・脱核兵器依存を正面から取り上げた吉岡 斉著『脱原子力国家への道』(岩波書店12/6/26刊)の刊行は、恰好の時宜を得たものです。
吉岡氏(以下著者と呼ぶ)は、原発廃止に向けて着実に前進するだけでなく、原子力の軍事利用についても、縮小に向けて先導的な役割を引き受ける国家を、「脱原子力国家」と定義します。本書は、こうした国家を実現するために、どのようなシナリオを描くことができるのか、またどのような障害を克服すべきかについて、基本的見地から考えるための素材を提供する、としています。
著者は、福島原発事故の教訓は、チェルノブイリ級の超過酷事故が、先進国で起こり、しかも世界標準炉である軽水炉で起こったことによって、世界のどこでも、何度でも起きるノーマル・アクシデントであることが立証されたことだ、と指摘します。従って、福島原発事故は、世界の原子力開発利用に大きな打撃を与えることは必定、と断定します。では、日本ではどのようになるか。著者は、日本の標準的な脱原発シナリオを、次のように描きます。
まず、既存原発の廃炉について。
福島第一の1~4号機は、既に廃炉決定。5、6号機は、放射能の高濃度汚染等により、廃炉は確実。福島第二の4基は、福島県民の信頼失墜により、運転再開は困難。
浜岡原発の3~5号機も閉鎖の可能性高い。東海第二も、危機一髪に陥ったことから地元の強い反対により、運転再開は困難。合計14基が、廃炉の可能性濃厚。40基体制へ。
また、女川原発の3基も、大震災被害から、運転再開は容易でない。
これ以外の、老朽化原発、炉型に弱点のある原発、自然災害リスクの高い原発、過去の地震で施設劣化の進んだ原発、大都市近くに立地した原発、安全確保に問題ある電力会社の原発などは、廃止される可能性がある。こうして全国で30基以下の体制へ。
一方、原発の新増設は今後全く行われなくなるだろう(完成間近の島根原発3号機と大間原発の2基については、帰趨は微妙)。
さらに、政府が法定寿命30年(引用者注:40年廃炉ルール)を厳守するならば、大リストラを生き延びた20~30基の原発のうち、2020年末までに大半の原発は廃止され、残りは5基以下となる。
核燃料サイクル関連事業(ウラン濃縮、核燃料再処理、高速増殖炉などの機微核技術)は、真っ先にリストラの俎上に載せられ、事業継続が困難となる。再処理事業を進める日本原燃の筆頭株主の東電は経営危機に陥り、他の電力業界も経営的負担は増加し、再処理事業を支えていくことはできないためだ。
こうした脱原発シナリオは、2000年代前半の電力自由化危機の時代、電力会社経営者が、原発の抱える高い経営リスクに直面し、原発事業のリストラを進めようとしていたことを想起して、著者があらためて、福島原発事故後の脱原発シナリオとして、描いたものです。ポスト3・11ではさらに、原発偏重の原子力・エネルギー政策転換の可能性は高く、安全基準の抜本的強化によって、このシナリオは一層、現実性を帯びてきます。しかし、こうした脱原発シナリオの前には、アメリカ政府という「最強の砦」がたちはだかるかもしれない、と著者は懸念します。どういうことなのか。
核エネルギーの軍事・民事両面にまたがる日米関係を、著者は「日米原子力同盟」と呼びます。その民事利用面の特徴は、日米の原子力メーカーは、アメリカ設計・日本製造と役割分担した密接な相互依存関係にあり、ともに単独では原子炉製造能力を持たない。脱原発シナリオが進めば、日本メーカーの原子力撤退の可能性がでてきて、アメリカの脱原発へのドミノ倒しが懸念される。アメリカの原子力ビジネスにとって「日米原子力同盟」は、生命線であるのです。
いっぽう日米原子力同盟の軍事利用面の特徴は、日本がアメリカの核兵器政策に全面的に協力し、自前の核武装を差し控えてきたこと。これに対してアメリカは、日本の核燃料サイクル技術(機微核技術)の開発、つまり日本の核武装ポテンシャルの発展を容認した。こうした国家安全保障のための原子力の位置づけを、著者は「核武装スタンバイ戦略」と呼びます。この日本の「核武装スタンバイ戦略」は、アメリカにとっても、東アジア諸国に対する外交カードとして有効であり、また、核兵器非保有国のなかで日本に対してのみ、機微核技術開発利用の特権を付与することで、日本関係者の欲求不満を懐柔し、アメリカへの忠誠心を高める効果がある。この戦略は日本にとっても、対米外交カードとなり、「核の傘」の確実な機能発揮の担保となる。
日本の脱原発は、アメリカの原子力ビジネスを不可能とし、日本の「核武装スタンバイ戦略」からの撤退は、日米同盟の安定性に、微妙な影響をあたえる。
それゆえ今後、アメリカからの強力な、脱原発路線への政策転換を阻止しょうとする政治的介入が、展開される可能性がある、と著者は結論付けました。
日本の脱原発シナリオの前には、「日米原子力同盟」が立ちはだかっていることは最早、明確です。脱原発と核廃絶は、同時に追求されなければならない緊急の課題なのです。核廃絶を「究極の目標」へと貶めた日本政府は、脱原発についても、「究極の目標」へと逃亡する懸念があります。吉岡氏は、すべての国民は当事者として、脱原子力の是非について自問自答することを、呼びかけています。「あなたは何をするのか」。
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原発では地震・津波・火山が論じられていますが、テロ・ミサイル・隕鉄は大丈夫なのでしょうか。
バリンジャー隕鉄(直径 20m)が深さ 170mまで潜りました。
想定外の自然災害はしょうがありませんが、その後の2次災害は人災だと思います。
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西の空から火球があらわれた。
みるみる火球は近づいてすごいスピードで東に飛び去った。
火球の方向は静岡方面だな海に落ちれば良いがな。
隕鉄でなければ良いがな。
ピンポイントで浜岡原発などになるなよ。
貧困問題等、日本の将来を憂い、処方箋になればと書きました。
よろしければご笑読ください。
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投稿: 小山啓天 | 2015年2月 4日 (水) 12時35分