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2012年11月14日 (水)

「売炭翁」ごっこ

1_img_5873  先週末、町の文化祭に参加し、竹炭を販売しました。10月半ばから炭焼きをはじめ、2度目の窯でまずまずの竹炭を確保、この日に臨みました。商品は、小さなビニール袋に詰められた5㎝×15㎝の竹炭切片と大きな網袋に詰められた竹炭の欠片(かけら)。初出店した昨年は、竹炭切片を無料配布したのですが、今年から販売することにしたもの。

1_img_5867_2  「炭」は地味を地で行く商品で、それ以上でもなくそれ以下でもない。ただ、町の秋祭りへの参加なので、少しいろどりが欲しい。そこで家内に頼んで、竹炭を使った花器を制作、花を生けてもらいました。NHK番組でみたベルギーのフローリストのアイデアを借用したものです。背景に、孟宗竹の竹林を配してみました。野の花と赤い実で飾られた竹炭の花器は、当初の目論見どおり、会場を訪れた人びとの目を惹きつけました。

 炭を売っていて、昨冬読んだ白居易の「売炭翁」という漢詩を思いだしました。唐の時代の炭売りは、灰まみれの真っ黒になって懸命に働き、それを売って、わずかの食べ物と着る物を手に入れるのでした。ある雪の日、長安の町で炭を売っていると、役人がやってきて「勅命ぞーッ」と脅し、有無も言わせず、わずかの反物を代金に、牛車一杯の炭を持って行ってしまった。こういう物語の漢詩です。

 売炭翁        炭を売る翁
 伐薪焼炭南山中  薪を伐り 炭を焼く 南山の中
 満面塵灰煙火色  満面の塵灰 煙火の色 
 両鬢蒼蒼十指黒  両鬢 蒼蒼 十指黒し

 最初の四句は、我々の炭焼きも、白居易の老人と同じ。満面の塵灰、両鬢 蒼蒼 十指黒し、です。違うは、唐の人は恐らく、我々のようにマスクを付けることはなかった。そして、もっぱら炭焼き(山仕事)に従事し、顔は「煙火色」、赤銅(しゃくどう)色だった。 

  売炭得銭何所営  炭を売り 銭を得て 何の営む所ぞ
 身上衣装口中食  身上の衣装 口中の食
 可憐身上衣正単  憐れむ可し 身上 衣 正に単(ひとえ)なり
 心憂炭賤願天寒  心に炭の賤(やす)きを憂え 天の寒きを願う

 我々は炭を売って、竹伐りや炭焼きの道具を調達する。最早、竹炭を燃料に供することは予定しない。だから炭商いの露天は、暖かいに越したことはない。唐の人は、それでもって衣食をまかなう。寒空に夏の単衣を羽織っだけだが、炭が高く売れるようにと、更に更に寒くなることを願っている。  

 夜来城外一尺雪  夜来 城外 一尺の雪
 暁駕炭車輾氷轍  暁に炭車を駕して 氷轍を輾(きし)らしむ 
  牛困人飢日已高  牛困(つか)れ 人飢えて 日 已(すで)に高し
 市南門外泥中歇  市の南の門外 泥中に歇(やす)む

 炭焼窯から秋祭りの会場までは、車で15分ほど。前日に、炭と竹をトラックに積んで、運び込んでおいた。疲れることもなく、少々空腹であるのみ。長安の郊外は、一尺の雪がつもっていた。凍てついた道を、車輪を軋ませてすすむ。長安までの長い道のりで、牛は疲れ、老人は空腹となる。雪の解けた泥濘の中で、一息つく。

 翩翩両騎来是誰  翩翩(へんぺん)たる両騎  来たるは是れ誰ぞ
 黄衣使者白衫児  黄衣の使者 白衫(さん)の児(じ)
  手把文書口称勅  手に文書を把(と)り 口に勅と称し
 廻車叱牛牽向北  車を廻(めぐ)らし 牛を叱して 牽きて北に向かわしむ

  そこに、宮廷の役人が馬に乗ってやってきて、手に文書をかざし「勅命ぞーッ」と声をあげる。そして炭車の向きをかえさせ、北に向わせた。そこには、宮廷がある筈だ。

 一車炭重千余斤  一車の炭の重さ 千余斤(きん)
  宮使駆将惜不得  宮使 駆り将(ゆ)けば 惜しむも得ず
 半匹紅綃一丈綾  半匹の紅綃 一丈の綾
 繋向牛頭充炭直  繋(つな)ぎて牛頭に向(お)き  炭の直(あたい)に充(み)つ  

 車一杯の炭は、千余斤(600㎏)。その代金は、絹の反物2本。米4升程度か。ひと冬、まっ黒になって働いた結果が、これぽっち。その反物を、牛の角にくくりつけて、帰路についた。悔しいがおかみのすることだ。どうしょうもない。(「売炭翁」の読み下し文と解釈は、一海知義著『漢詩一日一首 冬』(平凡社)による)
  米10㎏ 3,000円とすれば、米4升(6㎏)は1,800円。備長炭15㎏ 3,000円とすれば、千余斤(600㎏)で12万円。今日尺度でいっても、相当ひどい不等価交換です。 ところで、我々の竹炭販売の結果は、如何だったのか。1俵1,000円の竹炭(かけら)5俵と1袋50円の切片約100袋が、完売しました。一部おまけや贈与があって、売上げは約8,000円となりました。竹伐りの鋸が5本買える金額です。はじめての商いにしては上々だ、とみんな納得して帰路につきました。

 

 

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