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2012年12月21日 (金)

放射能に打ち克つ農業

 昨年の3月末、福島県須賀川市に住む農家の男性が、政府による福島産野菜の「摂取制限」指示の翌日、自ら命を断ちました。この男性は、30年以上前から有機栽培にこだわり、自作の腐葉土などで土壌改良を重ねてきた、と新聞は報じました。

 有機農業は、山林の落葉や家畜糞尿から作った堆・厩肥によって土作りを行う、地域資源循環型の伝統農法です。その落葉や家畜糞尿が、放射線に汚染されたのです。もとより田畑や農業用水も汚染されている。男性の自殺の背景には、収穫された野菜の摂取制限とともに、有機農業に致命的な打撃を与える放射能による土壌汚染があったのではないか。美味しく安全な本物の「食」を追求し、持続的な農業を目指してきた有機農業が、原発事故による放射能汚染によって、今まさに危機に直面しています。
 地産地消、フードマイレージ、スローフードなど、現在の食生活のあり方を見直さうと始まったこれらの運動の中心的担い手が、有機農業を営む農家とそれを支援する消費者たちでした。そして福島県は、有機農業の先進県のひとつ。その福島の有機農業がいま、放射能汚染の直撃をうけ、悶え苦しんでいるのです。 

 先週末、高崎市の旧倉渕村で、『放射能に克つ農の営み-福島の現場からわかってきた放射能汚染の実態とその対策-』と題した講演会があり、聴きに行きました。講師は、新潟大学農学部教授(土壌学)の野中昌法さん。野中さんは、3・11直後の昨年5月、日本有機農業学会有志とともに福島県の被災地に入り、農家への聞き取り調査をしました。その後、二本松市東和地区の「ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会」(ゆうきの里東和)の農家が主体となった地域と農業の復興プログラムに、研究者として協力してきました。

 福島県中通りにある東和地区は、福島原発から約50kmの地点にあり、農家自ら測定した土壌表面の空間放射線量は、90%が1μSv/h以下、10%が1~2μSv/hという、福島県内では中程度の汚染地帯といえるところです。研究者たちは、東和地区は農業を継続しながら放射能の影響を低減できる、と判断しました。「ゆうきの里東和」の農家と研究者たちは、調査と対話を重ねながら、放射能に立ち向かっていきます。講演は、この間の多くの調査結果をパワーポイントで表示しながら、進められました。強く印象に残った2項目について、要約して書き留めます。

 1.水田の放射性セシウム(134、137)の変化について
 データ①毎年、イナワラを稲刈り後に、鋤込んでいる水田のケース
                  水口   中央   水尻
         空間線量    0.86    0.62    0.53   (μSv/h
                    土   壌     4600      2040       1350   (Bq/Kg)
                    イナワラ     140         92         122
                    籾  殻       25         34          35
                    玄  米     nd          nd          nd   (検出限界10Bq/Kg)
 データ②イナワラの鋤き込みをせず、水が水尻で滞留していた水田のケース
                  水口   中央   水尻
         空間線量    0.81    0.64    0.84   (μSv/h
                    土   壌     3100      3100       3700   (Bq/Kg)
                    イナワラ     220        167         145
                    籾  殻       93         65          58
                    玄  米      39         31           25   (検出限界10Bq/Kg)
  他の水田データも含めると、空間線量・放射性セシウム含有量ともに、水口に多く、水尻に少ない。例外的にデータ②で水尻が高くなっているのは、水の滞留による、と推定。
 データ②水口は、①と比較して、土壌のセシウム含有量は少ないが、イナワラ、籾殻、玄米への移行は多くなっている。イナワラの鋤き込みの有無、草木灰を含むカリ肥料投入の有無、などの違いによるもの、と推定。
 以上のことから、イナワラや木灰を継続的に投入してきた有機農業の水田は、腐植含量の多い肥沃土壌となり、放射性セシウムの吸着・固定量が多くなって作物への移行が抑制された可能性がある、と指摘しました。

 2.暫定基準値(500Bq/Kg)を超えた玄米が検出された水田について
 この水田土壌の放射性セシウム含有量は、田植え前3000Bq/Kg、稲刈り後3000Bq/Kgとなっており、データ①水口よりも低い。しかし、玄米へ移行した放射性セシウムは500Bq/Kgを超え、データ①が未検出となっているのと対照的である。何故か。
 この水田は、雨水を利用する天水田で、山の水を上段の水田まわりの水路を通しながら、年中掛け流しにしており、水が滞留していた。また、水路まわりは管理されておらず、草木で覆われていた。田植え後は管理されず、肥培管理は不十分でカリウムも少ないと思われる。また作土層は浅かった。こうしたことから、放射性セシウムを多く含んだ水が、栽培期間中水田に入り込み、稲への吸収量が増加したもの、と推定しています。

 この他にも多数の調査データが紹介されたのですが、ここで紹介した2項目だけでも、大変多くのことを示唆してくれます。野中さんの指摘も含め、次ぎのように整理できます。
①水田土壌の放射性セシウムは、事故原発から直接飛散・沈着したもの、農業用水によって運び込まれたもの、そして落葉や腐葉土の施用によるもの、等がある。
②イネに含まれた放射性セシウムには、土壌中から移行したものと農業用水から移行したものがある。
③放射性セシウムの土壌からイネへの移行を防止(減少) するために、イナワラや堆肥を鋤き込み土壌肥沃度を高めること、および草木灰やカリ肥料による適切な肥培管理をすることが有効である。
④放射性セシウムが農業用水に入ることを防止(減少)するためには 、水路まわりの森林の枝打ちや落葉除去などの管理が必要である。
⑤用水からイネへの移行を防止(減少)するためには 、水田での水の滞留を極力避ける必要がある。

 このようにして「ゆうきの里東和」の農家は、研究者たちの協力を得ながら、有機農業こそ「放射能に克つ農の営み」だ、という確かな手応えをつかんだようです。原発事故による放射能汚染に悶え苦しみ、有機農業の危機に直面していた人びとが、その有機農業そのものを徹底することで、農業復興の道筋を見出しつつあります。「ゆうきの里東和」の農業を、今後も注意深く、フォローしていきたい。

 

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