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2013年1月28日 (月)

エル・グレコ展

 上野の東京都美術館でエル・グレコ展を観ました。世界中の美術館やカトリックの聖堂から集められた出品作品は、エル・グレコの代表的な作品を多く含み、またとない機会を美術ファンに与えてくれます。

Photo_4 エル・グレコの作品をはじめて見たのは、倉敷の大原美術館の『受胎告知』でした。聖母マリアのもとに大天使ガブリエルがやってきてイエス・キリストの受胎を告げる、という有名な絵画です。いまだ幼顔を残したマリアの無垢な表情が、印象的な作品でした。今回の出品作品の『聖アンナのいる聖家族』は、幼子イエスに乳を与えるマリアが描かれており、その表情は穏やかで、マリアの母性を強く感じさせます。また、母のアンナと夫のヨゼフは、無言のままやさしげに母子を見守っており、幸福な家族の日常生活を彷彿とさせます。最大の出展作品『無原罪のお宿り』の主人公も、勿論、マリアです。こちらは、マリアが聖霊を象徴する白いハトや天使たちに囲まれ、天を仰いでうっとりとした表情をしています。宗教的な神秘性が強調され、授乳するマリアと対照的です。同じモデルを使ったと思われるマリアの表情は、カトリックの教えの画題の違いによって、豊かに変化します。

Photo_5 いくつか展示されていた僧侶と貴族の肖像画のうち、とりわけ『修道士オルテンシオ・フェリス・パラビシーノの肖像』に魅せらました。モデルは「詩人・説教師としても活躍した当代きっての知識人」と解説にありました。面長な痩せた顔、ボサボサの頭と無精ひげ、そして無造作に着衣した僧衣などは、厳しい修行と超世俗的な生活を、想像させます。また、やさしく見開かれた大きな目、人の話を静かに聞き入る大きな耳、そしてセクシーな口許は、知的で男性的魅力にあふれ、おそらく、多くの若い求道者たちをひき付けたに違いありません。
 ローマを目指した天正少年使節の4人は、エル・グレコの住むトレドに立ち寄りました。大聖堂や教会を訪ね、エル・グレコの作品を見たかもしれません。そして何よりも、この絵のような、知的で魅力的な修道士に会い、心をゆさぶられるような説教に耳を傾けたのではないか、と想像します。

 水曜日の美術館には、平日に関わらず、大勢の人びとが来ていました。頭を掻き分けて、というほどの込み様ではありませんが、人の流れが切れることはありません。しかし光を落とした薄暗い館内は、静寂の中にありました。ひそひそ話すら、聞こえません。観客はみな、スポットライトの先にあるエル・グレコに魅せられ、その世界を堪能しています。もしここで、カトリックの香がたかれ、グレゴリアン聖歌が歌われるならば、私たち観客は、トレドの聖堂でエル・グレコの作品に囲まれながら、ミサに預かっているような錯覚を覚えたかもしれません。

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