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2013年8月21日 (水)

フランドルおよびアルザス、ロレーヌへの旅 -10-

ロレーヌ博物館、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールとジャック・カロの世界(7/28・日)

 30年戦争(1618~1648)は、神聖ローマ帝国を舞台に全ヨーロッパが参戦した大戦でした。アルザスとロレーヌは、戦中は傭兵の侵入により強奪、陵辱、拷問、殺害等の惨禍を被り、戦後はフランス王国に併合されたり、極めて強い影響力を及ばされることになりました。こうしたとき、ロレーヌ公国では二人の偉大な芸術家が、活躍していました。画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥール(1593~1652)と版画家ジャック・カロ(1592~1635)。ロレーヌ博物館(ロレーヌ公宮殿)に二人の作品を見に行きました。Img_0211

  

ジョルジュ・ド・ラ・トゥール

 ラ・トゥールの部屋は、光を最小限に落とした小さな部屋でした。その最奥部にパーテーションで仕切られた狭い空間があり、そこに目当ての作品がありました。「蚤をとる女」(1635-38頃)。ロレーヌ博物館の至宝です。フラッシュ・レスでの撮影が許されました。はじめは何となく、そわそわして落ち着かなかったのですが、長い時間見つづけるうちに、ラ・トゥールの静謐な世界に入れたように感じます。Img_0230  女は、口をつぐんで一心に、爪の先を見つめています。親指の爪の先には、黒い点がひとつ、蚤です。おへその すこし上にも、もう一匹の蚤がいます。バスローブのようなものを羽織っていますが、胸と腹と脚はむき出しになって、半裸のような姿です。Img_02361  左手首には黒いロザリオのようなものが見えます。お腹が大きいので、妊娠しているのかもしれません。 赤い椅子に置いたローソクの光が、胸と腹と腿を照らし出し、なにか、不思議でエロチックな雰囲気をかもしだします。いま彼女は、ただ無口なのかそれとも不機嫌なのか。この女性の境遇に興味がわきます。Img_0236  ジョルジュ・ド・ラ・トゥールは1593年、ナンシー西部の小さな町ヴィック・シュル・セイユのパン屋の息子として生まれました。24歳の時、新興貴族の娘と結婚し、画家として活動します。その翌年、30年戦争勃発。1639年、46歳のラ・トゥールはパリへいき、フランス王ルイ13世から「国王つき画家」の肩書きを得ました。しかし、素行悪く市民からの評判は悪かったようです。1652年、妻の後を追うように、病死。Img_0237  私が始めてラ・トゥール作品を見たのは、2005年、上野の国立西洋美術館で開催された『ジョルジュ・ド・ラ・トゥール―光と闇の世界』展でした。世界にある真作41点の内半数近くが上野に集まるという画期的な展覧会でした。老楽師の連れた犬の目やマグダラのマリアが見つめるローソクの光に、強烈な印象をうけたことを思い出します。その時、ナンシーに「蚤をとる女」という作品があることを知り、一度見てみたいと思いました。今回、その思いがかないました。私の横でこの作品を鑑賞していた初老の男性は、大きく溜息をつきながら、マニフィック!(すばらしい)、と何度もつぶやきました。Img_02391

ジャック・カロ

 凱旋門近くに、右手に針のようなものを持ち、左手に新書ほどの大きさの板を持ってそれを見つめる、裕福そうな男性のブロンズ像がありました。台座に、ジャック・カロと刻まれていました。17世紀ロレーヌのもうひとりの偉大な芸術家ジャック・カロの立像です。Img_0311
 ジャック・カロは1592年、ロレーヌ公国の首都ナンシーで高位な貴族の家に生まれました。15歳の時に金細工士の徒弟になり、その後ローマやフィレンツェで版画を学びました。フィレンツェでは、メディチ家の庇護を受けましたが、1621年のコジモ2世の死をきっかけに、ナンシーに戻り生涯そこですごしました。
 カロは、乞食や道化、楽師など貧しい庶民の姿をくり返し描きました。また、「戦争の惨禍」では、兵士や傭兵による略奪や放火、敵兵や下級兵士の処刑、農民による私刑などが、綿密に描かれました。30年戦争は、カロの生涯とほぼ重なり合います。 Img_0272  ロレーヌ博物館のカロの部屋には、彼が銅版画を作成する時に使っていた工具類とともに、主な作品の銅版画原版が展示されていました。ここでは、カロの銅版画のうち最も有名な作品のひとつ「戦争の惨禍」の1点を紹介します。(この作品については、このブログで旅行前に詳しく書いたので、そちらを見て欲しい。)カロが、銅版のうえを鋭い針で、カリカリ、カリカリと刻んでいく音が、聞こえてくるようです。この小さな銅版に、人びとの苦痛や悲しみを表情豊かに刻み込んだカロのただならぬ才能に、驚くばかりでした。売店で道化を描いた版画集“Les Gobbi”(印刷)を入手。Img_0268  

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