「STOP!秘密保護法」 福島原発震災の教訓
一昨日の夜、日比谷公園で開かれた「STOP!『秘密保護法』11.21大集会」に参加しました。地元「9条の会」のメンバーとともに、マイクロバスに乗って東京に向い、途中、衆議院国家安全保障特別委員会での「特定秘密保護法案」に関する質疑を傍聴し、集会定刻の1時間半前に、日比谷野!外音楽堂に到着しました。
はじめて見る特別委員会では、みんなの党と共産党の議員が質問していました。みんなの党の弁護士出身の若い議員は、特定秘密に関わる刑事裁判での弁護活動の困難さを指摘し、共産党のベテラン議員は、この法案によって訴追される可能性のある人は、単に防衛や外交秘密に関わる一部の国家公務員だけでなく、広く防衛産業に従事する者(経営者・技術者および労働者)や、防衛施設の建築確認申請に関わる地方公共団体の職員など、広範囲の人びとが対象になると指摘し、こうしたことが一切この法案には隠されている、と追及しました。
早めに到着した会場の日比谷野外音楽堂では、早速、メンバー20人の席を確保し、防寒用の衣服を着込んで、開会を待ちました。会場には、市民運動や労組の色とりどりの旗や幟(のぼり)がはためき、北海道や静岡など遠隔地からの参加者も、混じっていました。そして何よりも、旗や幟のない個人参加の人びとが、目立ちました。着席してしばらくすると、会場は参加者であふれかえり、ついにはゲートが閉鎖されました。このため食事に行った仲間3人は、会場の外での参加となりました。場外は、音楽堂を超える人びとが集まっていたようです。主催者発表1万人を、現場で実感しました。「秘密保護法反対」の一点で結集した「名もなき人びと」を中心とした大集会となりました。
集会では、民主党、共産党、社民党などの国会議員が多数参加し、「秘密保護法」を廃案に追い込もう、と熱く弁じました。また、弁護士や学者、作家、市民運動家などが次々と登壇し、それぞれの立場から、秘密保護法案の危険性を訴え、参加者から大きな賛同と連帯の拍手を受けました。「情報公開は、民主主義の基本」「秘密は、戦争のはじまり」という言葉が、胸に響きました。
帰路、マイクロバスのなかで、この日一日のことを胸に反芻しながら、「国家の秘密」について考えました。そして2年前の春、3・11原発震災に際して、放射性物質の拡散と影響を予測するシステムSPEEDIの情報が、政府や福島県によって隠蔽される、という事件があったことを思い出しました。このSPEEDIで予測された放射性物質拡散情報が秘密にされず、いち早く公表されていれば、多くの福島県民が被ばくせずに済むか、あるいは低レベルの被ばくにとどまったはずです。SPEEDIは、放射性ブルームが福島第一原発の北西方向に流れてくことを予測しており、そして現実はほぼ、その通りになってしまいました。政府によって避難指示された人びとは、放射性物質拡散の方向に避難して、被ばくしたのです。このように福島の人びとが大量の放射性ヨウ素などを被ばくしているとき、日本政府からSPEEDI情報を提供されたアメリカ政府はただちに、福島第一原発から半径80㎞圏内のアメリカ人に対して、避難勧告をだし、自国民の被ばく被害を防ごうとしました。住民の命にかかわるSPEEDI情報は、国民には秘密にされ、そして同盟国アメリカにいち早く提供されたのです。
福島原発震災後、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーとなった長崎大学の山下俊一氏は、若い医師たちが県民の甲状腺被ばくを防止するため安定ヨウ素剤を服用さすべきだと主張したのに対して安定ヨウ素剤不要論を展開し、その結果、ほとんどの福島県民は、安定ヨウ素剤を服用しませんでした。事故から2年8か月たった11月12日、福島県は、当時18歳以下だった子どもの甲状腺検査の結果、受検者約23万人のうち計59人が甲状腺がんやその疑いがある、と発表しました。山下氏によれば、自然発症の小児甲状腺がんの発症率は100万人に1人の確率だとしていますので、この県発表は極めて高い発症率というべきです。その山下俊一氏は最近、朝日新聞記者に対して、もし当時SPEEDIの情報を知っていたら安定ヨウ素剤の服用をアドバイスしていた、と振り返っています。
政府や福島県がSPEEDI情報を秘密にしたことが、住民の放射線被ばく回避のチャンスを奪い、責任ある専門医の安定ヨウ素剤不要論が放射性ヨウ素による甲状腺被ばく防止のチャンスを奪ったのです。最早、憤怒の先をどこに向けていいのか、ただただ迷うばかりです。「特定秘密保護法案第1条」には、秘密漏えいの防止によって、「国民の安全の確保に資する」とうたっていますが、情報の秘密こそが国民の生命を奪ってしまう、ということが私たちが得た原発震災の教訓のひとつです。
原発震災と秘密保護法に関連して、もうひとつのことについて触れておきたい。
3・11直後の3月18日、日本気象学会理事長・新野宏氏は、福島第一原発事故による放射性物質の拡散・影響を予測する研究成果の公表を自粛するよう、会員の研究者に通知しました。ネットに掲載された通知文には、「学会関係者が不確実を伴う情報を提供することは、徒に国の防災対策に関する情報を混乱させる」「防災対策の基本は、信頼できる単一の情報に基づいて行動すること」などと書かれています。ここでいう「信頼できる単一の情報」は、前後の文章から、文科省のSPEEDIの情報を指していることはあきらかです。この通知文は、学問の自由を侵す、と厳しい批判されました。
政府がSPEEDIの情報を秘密にし、それに呼応するように学会が、研究公表自粛で応えました。国民、とくに被災地の人びとは、避難にあたり頼るべき情報をすべてなくしてしまったのです。秘密保護法はきっと、このように社会の各レベルに自粛を誘いだし、国民生活を萎縮させてしまうものと想像します。原発震災のもうひとつの教訓です。
明日の午後3時から、高崎市役所前・城址公園で、「STOP!『秘密保護法』・群馬県集会」が開かれます。日比谷公園での熱気を、ここ群馬の地に伝えるために、参加します。
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