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2013年12月18日 (水)

フクシマの今を撮ったドキュメンタリー『福島原発事故 絶望から希望へ』

 今年春、地元で開催した講演会『3・11 フクシマからあなたへ』の講師、丹治杉江さんから、原発をなくすいわき市民の会が制作したドキュメンタリー(DVD)が完成したので是非見てほしい、とのメールが届きました。早速DVDを取り寄せ、観てみました。

 ドキュメンタリー『福島原発事故 絶望から希望へ』(DVD)は、第1章 絶望-先の見えない避難生活、第2章 危機-原発労働者の告発、第3章 希望-立ち上がる人々、の3つの章からできており、文字どおり、福島原発事故の絶望から希望までを、45分の簡潔にして的確な映像に仕上がっています。舞台は、やはりこの春、丹治さんの案内で訪ねた福島県浜通りの双葉・楢葉地域。

 「第1章 絶望」は、帰還困難区域からの避難生活を強いられている人びとに、カメラが向けられます。原発爆発の白煙を山の向こうに見たという若い看護師は、寝たきりの年老いた患者3人が、避難先の体育館で、家族に看取られることも亡くなったことを語ります。5年前にあこがれのマイホームを手に入れた女性は、そのまだ真新しいマイホームと仕事を失い、残されたのはただ、20年分の住宅ローンだけ、とつぶやきます。楢葉町にある宝鏡寺の住職は、40年間に及ぶ反原発運動を振り返り、福島第二原発の設置許可取り消しを求めた裁判での地裁判決に言及します。判決は、震度5以上は150年に1度、震度6以上は400年に1度、そして震度7以上は一度も起こっていないと断定し、住職たちの訴えを退けました。そして今、住職の田圃は、除染で出た放射性廃棄物で埋め尽くされている。

 「第2章 危機」は、事故収束にたずさわる原発労働者にスポットが当てられます。彼らは、放射線についての十分な教育を受けないまま高濃度に汚染された現場で作業していることや、工期に追われて極めてずさんな作業をしている実態を赤裸々に語ります。競争入札による低価格落札の横行で会社が倒産し解雇されたベテラン作業員は、別の会社に再就職したところ、賃金は極端に低くなった、と証言します。あいつぐヒューマン・エラーによる小さな事故の背景に、こうしたコストカットと労働条件の劣悪化があることが、明らかになります。この状態を放置すれば、複数の事故が同時に発生して、プラントの安定した状態をつき破り、3・11直後の同じ様な深刻な事故が起こる可能性があると、原発労働者は厳しく警告しています。

 「第3章 希望」は、絶望的な避難生活を強いられている被災者と、危機的な事故収束現場で作業しつづける原発労働者が、市民の支援を受けながら、自らの正当な権利を主張し訴えはじめた姿をとらえます。「東電の危険手当基準は2万円」「危険手当を増額させた労働者がいます」と大書されたポスターを見た作業員が、労働相談のため共産党市議を訪ねます。市議の渡辺博之さんは、原発事故の収束のためには労働条件の改善が不可欠だ、と労働者を励ましアドバイスします。また、市民グループによる東電福島復興本社との交渉や東電相手の損害賠償裁判の様子が丁寧に描かれます。画面には、宝鏡寺の住職や福島訪問時に世話になった伊藤達也さんの姿を見ることができます。伊藤さんは「福島の原発全10基を廃炉にすることが、日本全国の原発廃炉につながる」と静かに訴えます。

 ドキュメンタリーの最後に、制作者「原発をなくすいわき市民の会」からのメッセージが掲げられています。まさに、簡潔にして的確な福島県民の要求です。
 一.国の責任で原発労働者を守り、事故を収束させること。
 二.原発事故による実際の被害、精神的被害に対して完全賠償すること。
 三.原発事故を繰り返さないために原発ゼロにすること。

 このドキュメンタリーは主に、今年の10月前後に撮影されています。「フクシマの今」を知るのに格好のDVDだといえます。ひとりでも多くの皆さんに、是非とも見てほしい作品です。入手方法は下記の通り。

 購入申込先:丹治杉江さんまで メール ran1953@sea.plala.or.jp   定価500円+送料

 

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