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2014年6月27日 (金)

中学同窓会・鄭周河(チョン・ジュハ)写真展&金城実 彫刻展 ― 故郷・京都にて ―

 先週末、中学校同窓会への参加と墓参をかねて、京都へ行きました。同窓会の前後には、たまたま開かれていた福島と沖縄をテーマとした二つの美術展にいく機会に恵まれ、また墓参に際しては、姉夫婦とともに大原と宇治の寺院の庭園を見ることができました。Img_3118 (大原・実光院の庭園の池に咲いていたコウホネ(河骨)の花。この庭園には、茶花となる庭木が多く植えられ、現在ナツツバキ(沙羅の木)の白い花が満開でした。)

  同窓会では、半世紀ぶりに再会した友人たちと、懐かしい思い出話に花が咲き、楽しいひと時を過ごすことができました。地元に住む事情通から、卒業後も気になっていた友人たちの消息を聞き、50年という時の長さをかみしめました。知的障害をもったT君と暴力事件をたびたび起こしたY君は、すでに10数年前に亡くなり、悪がきからの執拗ないじめを笑顔でこらえつづけたSさんとは交流が絶え、絵や音楽に異彩を放っていたNさんは精神を病み、そして小学校の卒業式で答辞を読んだ在日朝鮮人二世のK君は、在日組織の幹部として活躍している、などなど。

 同窓会の前日、ひとり母校を訪ねた折、近くにある立命館大学国際平和ミュージアムにいきました。このミュージアムは「平和創造の主体者を育むため」との理念を掲げ、学生と市民が戦争と平和について学習するために設立されたもの。展示室内には、15年戦争や戦後の戦争について、現代史研究の成果にもとづき、丁寧かつ平易な解説パネルが張ってありました。植民地における日本軍の加害行為についても、決して回避することなく真正面から取り上げていました。歴史修正主義の風潮がはびこるなか、数少ない貴重なミュージアムだと思いました。
 このミュージアムで丁度、韓国人写真家の鄭周河(チョン・ジュハ)写真展『奪われた野にも春は来るのか』が開催されていました。鄭周河氏は、2011年11月と2012年1,2月、原発事故後の福島を訪ね、被災地の景色を写真に収めました。その中の20枚が、『奪われた野にも春は来るのか』の表題の下に、展示されていました。鄭氏の取材旅行が秋から冬にわたっており、したがって被写体となった福島被災地はまさに、「春が来る」前の季節の景色となっています。 2014syunkitokuten2 これらの作品からは、田圃や浜辺の瓦礫によって大津波の被災を知ることができますが、原発事故を表徴するものは何もなく、そのことはただ、観者の感性と想像力にゆだねられます。たとえばこの作品の場合、水田は稲の刈り株の替わりに枯草に覆われ、その背後に連なる防風林の前に農家が立ちならび、その上空を黒い鳥たちが舞っている。昨春、現地を訪れた私は、この枯れ草がセイタカアワダチソウであり、農家には1人も人間のいないことを知っています。そして、目に見えず臭いもせず音もない放射性物質が大量に大地に降りそそぎ、山野と河川と田畑と道路と住宅と学校と工場とすべての人間空間が、高濃度の放射能に汚染されていることを知っています。また、懸命の除染作業にかかわらずいまだ、村人が安心して帰ってくることのできないことも、知っています。写真家・鄭周河氏の「奪われた野にも春は来るのか」という嘆息にも似たつぶやきに、小さくうなずくばかりでした。

 会場入口に、一遍の詩が掲げられていました。李相和(リ・サンファ 1901-43)作『奪われた野にも春は来るのか』。ネットで検索した朝鮮日報(2004年1月21日)から引用します。

  奪われた野にも春は来るのか
  今は他人の地 ― 奪われた野にも春はくるのか
  わたしは全身に陽光を浴び
  青い空と青い野が交わるところめざして
  髪の分け目の白い筋のようなあぜ道を夢の如く歩いて行く
  口をつぐんだ空よ野よ
  わたしにはひとりで来たような気がしないのだ
  おまえが誘ったのか誰が呼んだのかもどかしい 答えておくれ
  風は耳元でささやく
  一歩も立ち止まるなと裾をゆすり
  ひばりは垣根越しの乙女のように雲の間で嬉しそうにさえずる
  ありがたく育った麦畑よ
  ゆうべ夜半を過ぎて降った美しい雨で
  おまえは麻束のようなその髪を洗ったのか わたしの頭まで軽くなったよ
  ひとりでも勇み行こう
  乾いた田を抱いて流れるやさしい小川は
  乳飲み子をあやす唄をうたいひとり踊り行くよ
  蝶よ燕よ そんなに急かすな
  たんぽぽの野の花にも挨拶しなけりゃ
  ひまし油塗った人が草刈した野だからしっかり見ておきたい
  この手に鎌を持たせておくれ
  ふくよかな乳房のようなこの土を
  足首が痺れるほど踏みしめ心地よい汗をも流してみたい
  川辺に戯れる子供のように
  飽きもせずきりもなく駈けまわるわが魂よ
  何を探しているのか 何処へ行くのか 可笑しいではないか 答えておくれ
  わたしは全身に草の香をまとい
  青い微笑と青い悲しみが交わるなかを
  足を引きずり一日中歩く どうやら春の心霊にとりつかれたようだ
  しかし今は ― 野を奪われ 春すらも奪われるというのか
                            (「開闢」70号1926.6に収録、選訳・康明淑)

 前世紀の前半、朝鮮の野を奪い春を奪ったのは、日本人でした。詩人は、はじめとおわりの3行のあいだに挟まれた27行の詩句のなかで朝鮮の野を、恋人のように、また母親のように愛しみ賛美しながら、痛いほどに美しい詩を作りだしました。この朝鮮の野を奪った侵略者・日本人への憤怒の気持ちは、はじめとおわりの3行のなかに、小さく静かに(あるいは無言のまま)「奪われた野にも春は来るのか」と問いかけ、極めて抑制的に表現されます。韓国人である鄭周河氏は、原発事故被災地の福島の野に、植民地下にあった朝鮮の野を重ね合わせることによって、福島を理解しょうとしました。私たちは、こうした鄭氏のメッセージによって、福島をとおして朝鮮の歴史を学ぶきっかけを得ようとしているのかもしれません。

 この写真展は、作家の徐京植氏や哲学者の高橋哲哉氏等が実行委員会をつくって、全国数箇所で開催されてきました。立命館大学国際平和ミュージアムでの開催期間は、2014年5月3日~7月19日まで。

Img_3164_2 (宇治・三室戸寺のアジサイ。1万株を超えるアジサイの花が、境内いっぱいに咲き誇っていました。)

 同窓会と墓参を終え帰宅する朝、毎日新聞紙上で『金城 実 世界を彫る なまぬるい奴は鬼でも喰わない』と題した沖縄の彫刻家・金城実氏の作品展のことを知り、早速、地下鉄・北大路駅近くのギャラリー「うつわ屋めなみ」二階の会場へ行きました。沖縄戦の組織的戦闘が終結した「慰霊の日」(6月23日)にあわせた開催でした。さほど広くないギャラリーに、20点ほどの作品がゆったりと展示されていました。おもな作品名は以下の通り(案内リーフレットより)。

  なまぬるい奴は鬼も喰わない   (木彫)
  吟遊詩人                             (テラコッタ)
  母・あき                               (木彫)
   石を抱く少女            (石彫)
   台湾原住民の叫び          (テラコッタ)
  大逆事件と安重根の像      (木彫)
  朝鮮人×作家の頭部        (木彫)
  怒り悲しみはどこへ向くのか  (木彫)
  若い日の魯迅           (石彫)
   チェゲバラ             (木彫)   

 会場中央に置かれた木彫『なまぬるい奴は鬼も喰わない』は、圧倒的な存在感をもって、観者に迫ります。鬼が人間を口から吐き出している。「なまぬるい奴」とは誰を指すのか?政治による沖縄への構造的差別を見て見ぬ振りをする本土の日本人や、「反中・嫌韓」と排外主義を煽る右翼政治家やメディアに対して中途半端な態度をとりつづける人びとを、作者の金城氏は激怒し唾棄している。そういう像なのだろうと思いました。Img_3190  この木彫の近くで、豊かな白色のひげを蓄えた白髪の老人が、ひとりの女性と熱心に話していました。彫刻家・金城実さんそのひとでした。丸顔の柔和な目つきは、金城さんの人懐っこい性格をそのまま表しているようでした。チェ・ゲバラの顔をプリントしたティーシャツが金城さんに似合っていて、なかなかいい。私も一緒に、金城さんの話を聴くことにしました。
 金城さんの話は、今秋予定されている沖縄県知事選についての候補者擁立の件に始まり、オーストラリア人歴史学者ガバン・マコーマックの沖縄研究のこと、作品にもあった大逆事件と安重根のこと、家永教科書裁判と親鸞の朝廷抗議文のこと、在日朝鮮人作家・金達寿のことなどなど、話題は尽きることはありません。1時間近く話をしてひと休み。喫煙からもどった金城さんに作品の写真撮影の許しを請うたところ、快く承諾していただきました。しかも、木彫『なまぬるい奴は鬼も喰わない』の横に立った金城さんは、どうぞ私も一緒に撮ってください、と屈託ない表情で云いました。
 まだじっくりと話を聴きたいと思いながら、新幹線に乗る時刻が迫っていたので、礼を云ってその場を辞することとしました。金城さんは私の手を握り締め、是非、沖縄・読谷村の自分のアトリエを訪ねてください、といって私を送ってくれました。

 この『金城 実  世界を彫る』関西巡回展の日程は、下記の通りです。
  京都・めなみ             6/22~29
  大阪・速成寺             7/ 8~13
    大阪・班家食工房 アトリエ    7/15~21
  神戸・神戸学生青年センター   7/25~27

Img_3131 (三室戸寺の本堂前、ハスの花がちょうど見ごろでした。ハスの花は、寺院と相性がいい。)

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