いま沖縄で何が起きているのか?
いま、沖縄で何が起きているのか? まず、次のブログを開いて読んで欲しい。
前者は沖縄の作家・目取真俊さんのブログ、後者は7年前から沖縄に移住したというチョイさんのブログです。ともに、辺野古新基地建設阻止のため、大浦湾上にてカヌーや小型漁船に乗って、海上保安庁による暴力的な制圧と闘っています。この二人がほぼ毎日書きつづけているブログ記事は、「オール沖縄」による新たな「島ぐるみ闘争」の現場からの報告記であり、いま、沖縄で何が起きているのかを、もっとも生き生きとリアルに伝えてくれます。
さて、「世界」臨時増刊号『沖縄
何が起きているのか』(岩波書店 2015/4/1発行)は、いま沖縄で進行している異常事態を、本土の人びとに伝えようとするものです。その異常事態とは、軍拡路線をひた走る安倍政権が、戦争につながる一切を拒否する「オール沖縄」が選択した辺野古新基地建設反対の民意を、警察と海上保安庁による暴力装置によって蹂躙し、巨大な新基地建設を強行しょうとしていることです。私たちは、いま沖縄で起きている事態に注目し、そのなかで上げられた沖縄の人びとの声に、真摯に耳を傾けなければなりません。
冒頭の論考は、大城立裕稿『生きなおす沖縄』。大城氏は、沖縄の歴史を「日本への同化と異化のはざま」で揺れてきたと、自己体験に合わせて語ります。「同化」は、「日本人」として認められようとする努力であり「祖国復帰」の願望でした。一方「異化」は、「独自のアイデンティティー」への意欲であり「沖縄差別」への抵抗でした。大城は、辺野古基地建設反対運動について語ります。「反対運動は、100余年来の(厳密には1609年の薩摩侵攻以来400余年来の)同化志向に潜行してきて主体的にたかまった異化志向の爆発だ。・・・同化と異化との対立のピーク・・・。これを止揚する道として、独立論、自治州論、・・・自己決定権、沖縄解放、国家統合の哲学の再構成など・・・生きなおしの道程が(ある。この生きなおす沖縄こそが)いずれ韓国人を肯かしめるほどの答えを出せそう」。ここの「韓国人を・・・」は、この論考の初めにあった、在日韓国人から「沖縄はなぜ独立せんですか」と問い詰められた、との記述に対応するものです。90歳を迎えようとする沖縄の作家大城立裕氏は、ぼそぼそとつぶやくように、沖縄の生きなおし、つまり「沖縄独立」を語り始めました。
「オール沖縄」理解のためには、仲里利信インタビュー『「オール沖縄」は戦争につながる一切を拒む』が、もっとも分りよい。仲里氏は、「オール沖縄」の原点は、悲惨な沖縄戦体験を踏まえた「戦争を拒否し、戦争につながる一切を否定する」という沖縄人の精神だと明言します。そして、文科省が教科書検定において、「集団自決」に関する「日本軍の強制」記述を削除したことに対し、憤った沖縄の民衆が2007年9月29日、県民大会を開き11万6千人が参加した、そこに「オール沖縄」の源流を見ています。
今年の1月、キャンプシュワブ・ゲート前で、私は、辺野古基地建設反対のシュプレヒコールの渦のなかに立っていました。そこに、衆院選で初当選した仲里氏が、数人の手踊りに迎えられて登場しました。ほんの数秒の踊りでしたが、この何気ない所作に、沖縄の人びとの息の長い持続的で強靭な意志とおおらかさを感じました。仲里氏は、自民党沖縄県連の重鎮でしたが、普天間基地の県内移設に反対する「オール沖縄」の候補として出馬し、当選しました。仲里当選は「オール沖縄」の勝利の象徴でした。仲里氏は、南部戦跡のある南風原出身で、7歳のとき沖縄戦を体験されました。
その仲里氏は、インタビューに答えて、次のように云っています。「選挙という民主主義的な手続きを通じて繰り返し示されている沖縄県民の意思を踏みにじり、それへの県民の抵抗を警察や海上保安庁などが実力で封じ込めようとするならば、その行き着く先は、沖縄の独立でしょう。」また、衆院選における「オール沖縄」の勝利の「一番の功労者は共産党だ」と評価し、共産党の赤嶺政賢当選こそ、「オール沖縄」勝利の象徴だと語りました。保守と革新が「戦争につながる一切を拒む」という一点で共闘し、ともに相手を称え功績をゆずり合っています。ここに、沖縄民主主義の奥行きのある到達点をみます。
「オール沖縄」の輪の中には勿論、沖縄経済人も入っています。前県建設業協会会長・現県商工会連合会長
照屋義実インタビュー『本当に豊かな沖縄を引き継ぐ責任があるのです』。照屋氏は、「脱公共事業」を掲げ、経済の自立の重要性を訴えます。そして沖縄の「基地依存・財政依存経済」は、国土の0.6%の沖縄に基地の74%を押し込めたほうが都合がいいとする日本政府の政策的意図だ、と看破します。しかし既に、沖縄経済の基地依存率は下がり、例えば軍関係所得は県民総所得の5%ほどしかありません。(このことは、同書所収の川瀬光義稿『基地は沖縄の経済・財政の阻害要因である―「基地依存」をめぐって』で詳細に論じられています。)照屋氏は熱く語ります。「経済の自立的進展に向かって仕組みが作られ、我々産業人も動きだして、工夫がどんどん生まれてきて、ビジネスチャンスが広がっていく。先を展望する楽しみが広がって、それに足場を置きながら、基地の撤去に向かっていく。沖縄だけの視点ではなく、中国、韓国、東南アジアの視点を総合的に見合わせる中で、沖縄の安全を希求すべき時だと思います。」
県内外の環境専門家からは、辺野古大浦湾の自然環境破壊の危険性が、訴えられます。WHO環境専門官であった前沖縄大学学長・桜井国俊氏は『日本の未来を奪う辺野古違法アセス』を投稿しました。桜井氏は、辺野古埋め立ての前提となっている辺野古環境アセスメントは、手続き面でも内容の面でも違法であると指摘し、この違法なアセスを容認すれば、科学性と民主性がともに損なわれ、アセス制度そのものが崩壊してしまう、と警告します。驚くべきことに、辺野古大浦湾のジュゴンとサンゴの調査を名目に海をかき混ぜてしまい、意図的にジュゴンを追い出した可能性がある、という。桜井氏の発する最も深刻な警告は、「世界的にも指折りの生物多様性に富む海」の破壊に関することです。「ICUN(国際自然保護連合)が最重要視しているのは希少種の保護であり、そのためには外来種を入れてはならない。ところが、辺野古大浦湾を埋め立てる土砂の量は2,100万立法メートルと言われており、沖縄県内では調達できず県外から搬入しなければならない。県外からの土砂の搬入を通じて外来種が持ち込まれる可能性はきわめて高い」。
沖縄に10年以上住みながらサンゴ礁の研究をつづけてきたという海洋生物学者のキャサリン・ミュージック氏の次の言葉も是非、引用しておきたい。「大浦湾がどれほどの多様性をもち、他に類を見ないものであるか、わからない人がいるだろうか。ここは奇跡のように健全だ。生息する種は数千に上る。420種以上の珊瑚、1040種の魚、403種の海藻・海草、(120種のウミウシをはじめとする)1974種の軟体動物、753種の甲殻類。そして湾につながる山や森、川、マングローブ林、干潟にもさらに多くの種が生息しているのだ。科学がまだよく知らない、記述していないものがたくさんある。」(同氏稿『不安と希望―辺野古の基地と大浦湾の未来』から)
日本政治思想史を専攻する比屋根照夫氏は、海洋民族である琉球・沖縄人が、海を生活の糧とし、自然との融合、自然への崇拝によって琉球・沖縄文化を育んできたことを、沖縄の民俗学者・伊波普猷の「おもろそうし」研究に寄せて述べています。「伊波の美しいおもろを読むと、金武湾、辺野古の美しい沖縄の原風景をまさに踏みにじるこの国のあり方に、琉球文化を破壊される思いを禁じえない。辺野古の海は我々の母なる生命の誕生の地である。・・・あの豊饒の海に数トン級のコンクリート・ブロックを沈めることで、その果てに広がる母なる海の荒廃。これこそが琉球の固有文化の破壊であり、このような強権による琉球文化の破壊は明治以来かってない規模だ。」(同氏稿『沖縄近現代史の中の現在』から)
私は、「世界」臨時増刊号に寄せられた論考やインタビュー記事を読んでいて、いま、安倍政権が「粛々」と進めている辺野古新基地建設の暴力はまさに、沖縄の自然と文化を破壊することによって、アフガニスタンのタリバンによるパーミヤン渓谷の石仏破壊に匹敵すると思うに至りました。
以上7編の論文とインタビューを紹介しました。全部で29編の論文・インタビューからなる「世界」増刊号ですが、他にも多くの紹介すべきものがあります。いま是非、手にとって読んでいただきたい。
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